【私のビョーキ】-6
「なに? 聞き取れないよ」
「んへへ、嘘だよ」
「まあ、アッキーったら……へ?」
ムッとした私が彼を睨もうとすると、目を瞑ったアッキーの顔が迫ってきた。
ボールが顔面に来たとしても、きっと避けられる自信がある。だけど、それよりずっとゆっくり迫る彼の小顔を、何故か避けられなかった。
女の子みたいに長い睫毛に、罅割れた唇。整った鼻が私の鼻にぶつかってしまう。
リンゴみたいに赤い円のある頬は産毛の感触が優しくて好き。
ほんのり香るのは、多分十円もしない飴の匂いかな?
安っぽいのは嫌いだけど、でも、ファーストキスが甘いなんて素敵じゃない?
私もいつの間にか目を閉じて、彼の唇を感じていた。
多分十秒としてなかったと思う。
けど、すごく長く感じた。
「何、したの?」
我に返った私は間抜けなことを口走る。
「キスだよ。知らないの?」
それぐらい幼稚園児でも知ってる。けど、
「なんでしたの?」
が分からない。
「俺、ユッキーのこと好きだもん。だから」
「だって、そんなの子供のすることじゃ……」
「好きならいいじゃん」
そうだけど、物事には順序があるんじゃいかな。
「ユッキーは俺のこと嫌い?」
「それは……」
どっちだろう?
「ゴメンネ。私、用あるから帰るね」
「ちょっとユッキー」
追いすがるアッキーに振り返ることなんか出来ない。
だって、顔見られるの、すっごい恥ずかしいもん!
***−−−***
放課後はアッキーと公園でデート。それを思えば学校だって平気。
推薦のほうは順調にいってるみたいだし、私は一足先に青春を謳歌しようと思う。
でも、まさかキスしてくれるなんて思わなかった。
アレはただ唇が触れ合った程度の挨拶みたいなキスだったけど、でも、私にとっては大切なファーストキス。アッキーの唇、甘かったしね。
アッキーもいじめっ子をぶっ飛ばしたせいか自信もっちゃたりして、最近はきちんと学校に行ってるみたい。
むしろいじめっ子たちとも仲直りしたのか、一緒にやってきてポートボールをしているくらいだし、もう心配ない。私は彼らのやりたがらないゴールマンをしてあげる。アッキーのボールは贔屓してるけど、まあそれはそれとして。
だけど、そのせいかアッキーと二人になれる時間が少なくなってしまった。
やっぱり小学生なのか、女の子の私といるのは照れくさいみたい。
キスしてきたくせに、変なところで恥ずかしがりやなのね。