【私のビョーキ】-5
「アッキー、がんばったね」
「平気だよ、これぐらい」
「泣かないんだね」
「今は痛くて泣きそうだけどね」
強がる子、我慢強い子だと思う。でも、なんでこの子がイジメられているんだろう?
「ねえアッキー、早川って誰?」
「ん、いいじゃん別に」
「だって、気になるじゃない」
本当は理由も分かる。というか、多分それが原因じゃないかな?
だって、多感な年頃だと、エンピツの種類とかでもすぐに差別したがるし、それが苗字みたいな目立つ部分ならなおさらだよ。
「……俺のお母さん、離婚するんだってさ。だから俺、お母さんの昔の苗字に戻るんだって」
「そう……」
予想してた答えなのに、私はかける言葉がみつからない。なんとか彼を元気付けてあげたいけど、でも、何を言っても薄ら寒い。
こんなとき、青春ドラマや恋愛映画なら傷ついた男に勇気を与えのなら、キスでもすればいい。けど、この子はまだ子供。そんなことしても嫌がられるだけだ。
それに大切なファーストキスを文字通りションベン臭いガキに上げる必要も無い。
「それよりユッキー、あいつらに酷いことされなかった? もしまたあいつらがなにかしてきたら言ってよ。俺がやっつけてやるんだから!」
たかが一回追い払った程度でもう強くなった気になれるアッキーが羨ましい。
私はまだ学校の雰囲気が好きになれず、アッキーに会えることを言い訳にサボらなかっただけなのに。
「そう。ありがとう、アッキー。なにかあったら私のこと守ってね?」
「あったり前じゃん! ユッキーは俺の大事な仲間だもん!」
まるでヒーローごっこね。無邪気なアッキーを見つめながら、それでも小さなナイトに心温まらずにはいられなかった。
「じゃあ、約束しよ。指きりげんまん……」
「そんなのダセーよ」
私が小指を差し出しても、アッキーはフンと不適な笑いを浮かべているだけ。
最近の子供の約束の仕方ってあるのかしら?
「それじゃあアッキーはどうやって約束をするの?」
「んとね……、耳貸して……、あのね、んとね……ごしょごしょ」
耳元に彼の息がかかると、こそばゆいばかりでよく聞こえない。