thoroughbred-1
「これで終わり…っと」
最後の荷物を車に積み終えると、じんわりと額にかいた汗を腕で拭った。
今回買い物をしたショッピングセンターにカートを返した後、さっと車に乗り込みエンジンをかけると同時に音楽が流れ出す。
その曲に合わせて歌詞を口ずさみながら発進させる。
今年の残暑は特別長かった。
もう10月はすぐそこだというのに。
「やっと夏が終わったし、冷房はもう必要ないか」
そう小さく独り言を呟いてから、車の窓を開けた。
「っ」
その瞬間、爽やかな風が車内を抜ける。
うだるような夏の暑さも終わり、有馬光一(ありまこういち)は新たな秋の到来に胸を躍らせたのだった。
thoroughbred
***
「合コン!?」
眠気眼で電話をとったのだが、友人の言葉に敏感に反応した俺は瞬時に飛び起きた。
「明日の19時だな、わかった」
俺は電話を切ったというのに、湧き上がる興奮を隠せないでいた。
久しぶりの合コンだというだけではない。
俺は今までと違うのだ。
今日入り立ての新居。
大学三年目でついに実家を出て、ワンルームとは言え自分だけの城を手に入れた。
しばらく彼女がいなく寂しい生活を送っていた俺だが、今なら気楽に女性を自宅に呼ぶことができる。
つまり、お持ち帰りができるのだ。
早速、俺は明日のために服を選ぶ作業に取りかかったのだった。
***
翌日、俺は友人と共に合コン会場である居酒屋へと足を踏み入れた。
既に女性陣は席について談笑していた。
年上だし品があるように見えて、俺の心臓は高鳴る。
友人の一人がお待たせ、なんて挨拶を交わしながら席に着くのを見計らって、俺もゆっくりと座る。
すぐに幹事から順番に男女それぞれ自己紹介が始まる。
俺は一番端の席だから、順番が来るまで何を言おうか考えながら、女性陣の名前を覚えていった。
「有馬光一です。今日はよろしく」
結局考えた末にこんなあっさりとした自己紹介になり、俺はだめだなと小さく落ち込んだ。久しぶりの合コンだということもあってか、うまくしゃべれなかったのだ。
「有馬…?」
俺が座ると同時に、向かいに座っている子が小さく呟いた。
えっと…木山桃絵(きやまももえ)さん、だったか。
他の子に比べて化粧も服装も大人しい感じで、自己紹介も大人の雰囲気を醸し出すようなクールな感じだった。
それにしても、少し驚いたように俺の名字を呟いたってことは、もしかしたら俺のことを知っているのかもしれない。
そう思って少し考えてみたが、俺の方は木山桃絵という名前に覚えがなかった。