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thoroughbred
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thoroughbred-11

***

俺と桃絵さんはスタンドに出た。
もちろん雨など関係なく、この大観衆の中では座ることができないが、どうにかレース場にある大きなビジョンを見れる場所を確保した。

そしてレースの開始を告げるファンファーレが鳴る。
その音に合わせて観客は手拍子をして、それが地鳴りのように周囲に響く。

「いよいよだね」
「…はい」

俺は自然に、桃絵さんの手を握っていた。


そしてレースが始まった。
ほぼ横一線でスタートしたが、一頭出遅れた馬がいる。
「あ…」
紛れもない、ラブストーリーだった。
瞬時に俺は肩を落としたが、桃絵さんが俺の手を強く握ってきた。
「大丈夫!」
その声は力強かった。

桃絵さんの選んだ2番の馬を先頭に、早くも第三コーナーを抜ける。

そのとき、近くの観客が、石田!そのままいけ!と叫んでいるのが聞こえた。

もしかして、石田太郎?そういうことだったのか。

「光一くん!」
第四コーナーにさしかかってきたとき、桃絵さんが声を上げた。
10番のゼッケンをつけた馬がぐんぐんと加速し、上位集団へと上がってきたのだ。
ラブストーリーだ。
そして直線、スタンドの歓声は最高潮になる。
ラブストーリーは失速することなく、そのまま上位集団を抜き去った。

前にいるのは一頭、石田が騎乗する桃絵さんの馬だけだった。
「そうか…差し馬だったのか」
桃絵さんに聞いた話の中に、脚質というものがあった。

馬にはそれぞれタイプがあり、スタート直後に先頭を狙う逃げ馬や、後半で溜めた脚を爆発させる差し馬なんかがいるらしい。
俺は今まで気にせず馬を選んでいた。
どうやら偶然、俺は前に行く馬ばかりを今まで選んでいたらしい。

今回も脚質を知らずに選んでしまったため、俺はこのラブストーリーの激しい逆襲に驚きを隠せなかった。

そしてゴール前のことだった。
「あっ」
桃絵さんが小さく叫んだ瞬間、周りの観客も同様に騒ぎはじめる。
俺は慌ててコースに目を向けると、先頭で逃げ切り体制をとっていた2番の馬がすごい勢いで失速していった。
迫るラブストーリー。
俺はその瞬間、観客と同様に叫んでしまった。
「いけえええええ!」

そのまま二頭は、ほぼ同時にゴールを抜けた。

観客は異様にざわついている。
「…すごい」
「すごかったね」
「…はい」
写真判定が行われるらしく、結果はまだ出ないようだった。

「光一くん、どうしてラブストーリーを選んだの?」
まだ興奮覚めやらぬ中、桃絵さんは不思議そうな顔で俺に訊ねる。
「あ…いや、恥ずかしいんですが、ラブストーリーって名前で…」
「ふふ…可愛いなあ、光一くんは」
「はは…」
俺はその言葉に、またも恥ずかしくなる。


そしてついに、順位が確定した。


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