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thoroughbred
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thoroughbred-12

掲示板の一番上には、10の数字が点灯していた。
「……」
二着には2番、鼻の差の勝利だった。
「やっ…たぁぁ!」
俺をそう叫ぶと、思わず桃絵さんを抱きしめた。
「きゃっ」
「あ…すいません!」
俺が慌てて離すと、桃絵さんは顔を赤くして俯いている。
「あ…あの…桃絵さん」
「普通に告白してくれればいいのに…すごく怖かったんだからね!」
桃絵さんは真っ赤な顔でそう言うと、俺に飛びついてきた。
俺は、やっぱりやめておけばよかったか、と苦笑いする。
「はは…すいません」


俺達は、しばらくそうやって互いを確かめ合ったのだった。



***

「ご…五万円!?」
俺と桃絵さんは、表彰が行われるウィナーズサークルでラブストーリーの雄姿を見届けた。
なんだか感慨深い気持ちに浸っていた俺だが、払い戻し金額を見て唖然としてしまった。
「まさか単勝オッズ51倍の馬を千円も買うなんてね」
桃絵さんは隣で笑っている。
「と、とりあえず換金してきます」
「うん、ここで待ってるね」
俺はちょっとびくびくしながら券売機へと向かった。



***

「桃絵さん」
「なに?」
帰り道、お互いしばらく無言だったが、俺から話を切り出した。
「なんでラブストーリーは勝てたんですかね?」
すると、桃絵さんは困ったような顔をして言った。
「…私の選んだ馬はね、雨に弱いの」
「え」
そうだ、今でこそ雨は止んで日が射してはいるが、競馬をしている間はずっと雨だった。
「もちろん体調ややる気に差があったかもしれない。でも、あれだけの実力差は埋められない」
「はい」
「だから私にはわからない。競馬は何が起こるかわからないからね」
「…はあ」
やっぱり競馬はすごい、などと考えていると、桃絵さんは笑顔で続けた。
「でもきっと、一番は光一くんが応援したからじゃないかな」
「桃絵さんのためにね」
「ふふ」
「あはは」
二人で笑いあう。
「光一くん、私のこともいっぱい応援してね!」
桃絵さんはそう言って俺の手を握った。
「もちろん!…あ」
俺はあることを思い出してごそごそとポケットを探った。

取り出したのは二枚の紙。

「これ、あの馬券のコピーです。換金するときにコピーしてもらったんですよ」
「そうなんだ」
「これ、お互いに持ってましょう。思い出として」
「うん!なんだかすごくうれしい!ありがとう」
桃絵さんは大切そうに馬券を見つめていた。
俺はこっそりその横顔を見つめる。


やっぱり桃絵さんは可愛い。


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