エンジェル・ダストB-11
「佐倉さん。一応、裏付けは取りますが、今回のは記事に?」
「いや、それはもう少し待ってくれ」
「分かりました。また何か掴んだら教えて下さい」
3人が席を立ち、座敷を後にしようとした時、柴田が思い出したように、
「ああ。そういえば、1ヶ月ほど前ですか。自衛隊員が亡くなったそうですね?」
「自衛隊員?」
「ええ。イラクの派遣隊員です」
「おかしいな。そんな記事載ってなかったが」
「当然です。まだ未発表ですから」
その時、佐倉の頭の中がスパークした。
(…ひと月前の自衛隊員の死亡…その1週間後に防衛省の佐藤と田中が大河内を訪ねた…そして大河内は殺害された…)
断片がひとつに繋がった。佐倉は身体が熱くなるのを覚えた。
「その情報は確かなのか!?」
佐倉の慌てように柴田は面喰らった。
「え、ええ。情報元は明かせませんが信頼度はトリプルAです」
「そうか…」
「何か…繋がったんですね!」
今度は柴田が慌てた。
「まだ漠然とだがな。それで、頼まれてもらえないか?」
「何をです?」
「その死亡した自衛隊員の部隊。出来れば名前も」
「分かりました。貸しですからね!」
柴田は、いたずらっぽい笑顔を佐倉に向けた。
「分かってる。真っ先にふみに知らせるよ」
「きっとですよ」
「ああ」
佐倉はゆっくりと頷いた。その顔に先ほどまで刻まれていたシワは消えていた。
柴田と別れた1時間後、佐倉と宮内は大河内の自宅を訪れていた。防衛省に対して情報の公開請求を頼むためだ。
しかし、妻の須美枝と豊は消極的だった。
「ただ…防衛省を相手にそんな事しても…」
「いえ。これは、ご遺族にしか出来ない事なのです。ご主人の無念を晴らすために、ご協力をお願いします」
須美枝は顔を曇らせる。
「本当に主人は殺されたのですか?」
「今日、ある筋の情報を得てはっきりしました。これは、自殺に見せかけた殺人です。
そして、防衛省が深く関わっています…」
佐倉の説得で、須美枝はようやく了承した。弁護士を通じ、情報公開請求がなされたのはその2日後だった。
「それでは失礼します」
佐倉達が、大河内の自宅を後にしたのは午後9時を過ぎていた。
「佐倉さん。今日は1日、圧巻させられました」
帰り路。宮内が改まった口調で言った。
「どうしたんだ?」
「なんて言うか…その洞察力と行動力…とても私なんて足元にも及ばないなと」
佐倉は宮内の方を見た。俯いた横顔は自信を無くしてしぼんでいる。
その肩を叩く。
「そう心配するな。こんなモノは経験だ。おまえも、後5年もすれば身に付くさ」
「……5年ですか…」
宮内は天を仰いだ。
雲ひとつ無い冬の夜空は空気が澄みわたり、散りばめられた星々が瞬いていた。