やっぱすっきゃねん!VD-1
夕闇の迫る中、青葉中学校のグランド前に数々のクルマが停まり、中から野球部員達が次々と降りてくる。
「1年生は道具を運べ!他はグランドに整列!」
キャプテン山下の指示の下、1年生達はボールやヘルメット、キャッチャー防具、バットの入ったカゴを急いで用具入れに片付ける。
その間2、3年生達は、いつもの場所で整列して待っている。
やがて、1年生が片付けを終えて整列に加わる頃、永井達が現れた。
「皆んな、今日は長時間ご苦労さん。明日は精華中学との試合だ。集合時刻は9時だから、ゆっくりと身体を休めてくれ」
帰りが遅かった事もあり、明日の予定だけを連絡すると解散となった。部員達は各々に学校を後にしていく。
「お先に失礼します!」
佳代に直也、淳、達也、稲森がかたまりで歩いているそばを、修は一礼してから自転車で横ぎって行った。
「修も、ずいぶんとらしくなったな」
達也は、感心したように遠ざかる修の姿を目で追い掛ける。すると、隣を歩く淳は同調して頷く。
「アイツ、ドルフィンズでキャプテンやってたからか、1年を束ねるのが上手いんだ」
「じゃ、将来のキャプテン候補だな」
(へえ、あの修がねえ…)
常日頃から弟を見ている佳代にとって、今の話は信じられない思いだ。
校門前でバラバラとなり、直也と佳代は同じ方向で一緒に帰って行く。
直也の目が佳代に向いた。
「…な、何よ?」
不安がる佳代に対し、直也はわざと皮肉っぽい口調で、
「方や1年の頃は、遅刻ばかりで挨拶もまともに出来なかった。方や同級生達の模範。姉弟でこれほど違うとはなあ」
「う、うっさいなあ、修はお父さん似なの!」
頬を膨らます佳代に、直也は笑らった。
「それより、おまえ初めて打ったんじゃねえか?」
それは1試合目の5回に佳代が放った、中押しのホームランだった。
「…ああ、アレね…」
「アレねって、嬉しくないのかよ?」
あまり良い顔をしないのを、直也は不可解といった面持ちで見つめる。そんな気持ちに気付いた佳代は心境を語った。
「…そりゃホームランは嬉しいさ。でも、どうやって打ったのか覚えてないんだもん」
「覚えてないって…あんな見事に内角を打ったのにか?」
「全然…それどころか打った感触も無くて、その後はまったくダメだったし…」
1試合目の活躍を買われ、2試合目は先発メンバーに選ばれた。が、巡ってきた2打席とも凡打に終わってしまった。