菓子-2
「あなた達見てるともどかしいのよね」とは口に出さず。
一方で、どっちでも良いと言われた圭君は言い訳の機会を失って何ともしようがなくなってしまう。
どうにも微妙な雰囲気の中、有川早苗先輩はしれっと心の中で舌を出した。
「へぇ、赤瀬君、結構モテるんだ?」
上擦った声で感心してみせる楓。
平静を装っているつもりなのだがとてもそうは見えない。
動揺しているのは圭君も一緒なので気が付いていないが、端から見ている有川早苗は笑いをこらえるのに必死である。
しかし、策士有川の奸計は尚も続く。
「それで、かえちゃんにはおやつにチョコケーキでも作ってきて欲しいな。丁度バレンタインだし、男子も喜ぶと思うんだ」
「ちょ、何で私が……」
圭君の前で義理チョコを配るような事はしたくないし、圭君に義理チョコみたいな形でチョコを渡したくない。
「やっぱり駄目か。仕方ない、男共にはわたしがチョコポテチでも配ってあげるか」
溜め息混じりに呟く策士有川。
「ぽ、……ぽてちぃ?駄目です、ポテチなんて!クラシック音楽に合いません!!」
「じゃあ作ってきてくれるんだ。楽しみィ」
「あ、いや、その……はい」
不承不承ながらも返事をする楓。
それっきり口もきかず、時間が来ると挨拶もそこそこに学校を飛び出し、大型スーパーの製菓コーナーに駆け込んだ。
「なんだって私が、なんだって私が……キィッ!!」
怒り心頭に発しながらも狙いあやまたず、食材を次々にカートに投げ入れる楓。
素早くレジにて清算を済ませ、疾風のように駆け抜けていく。
「どうして私がこんな事を……」
家に着くと着替えもそこそこにキッチンに飛び込み、粉にまみれながらもケーキ作りに没頭する。
何だかんだ言いながらも、いざ始めると気合いが入ってしまう。
例え義理チョコだとて圭君に美味しいと言ってもらいたい。
「見よ、この光沢!エクレア(菓子)じゃないけどまるでエクレア(稲妻)のようよ!!」
チョコをかき混ぜながら、高笑いする楓。
居間でテレビを見ていた母親が我が子の行く末を案じたのは言うまでもない。
その後、大量に完成したチョコレートケーキを前に、楓は疲労困憊して椅子に座り込んだ。
そして、バレンタインまでには日があることを思い出し口から魂が抜けていく。
「……私ってば、何やってんだろ」
どんなに頑張ってケーキを作っても、義理だと思われたら自分の想いに気付いてもらえないだろう。
かと言って、本命と言って渡す勇気もない。
疲れ果て、朦朧とする頭に昼間、有川先輩の言った言葉が蘇る。
圭君が密かに人気が有ることは知っていたけど、出待ちの女の子が何人もいるとは思わなかった。
そして、それらの女の子の想いが届かなかったことも。
圭君にふられた女の子達はどんな想いだったろうか。
他の女の子と圭君が付き合うのは嫌だけど、ふられた女の子の気持ちを考えると切なくなってしまう。
そして、もしかすると自分もその中の一人になるかも知れないのだ。
そう考えると、喉に鉛の棒を押し込まれたような圧迫を感じ、目頭が熱くなる。
普段は鬼神すら避ける裂帛の気合いを自負する楓であったが、夜気が物悲しさを誘うのか、嗚咽が漏れ、とめどなく涙が溢れた。