reality ability‐第8話‐刻印・【真】‐-17
‐同時刻、四人が話し合っている部屋前‐
部屋の前の廊下。皇希と織音が立っている。皇希が扉に触れようとするが結界に邪魔されていた。
「四重の結界か‥。俺には余裕だが、織音にさせるか。」
皇希は独り言のように言った。聞いていた織音の顔は余裕がなかった。4人分の力を越える力は自分にはないと思っているのだろう。
皇希は織音を見た。織音は皇希を見た。お互いの目で会話したようだ。何も言わずに織音が扉の前に立つ。すると皇希が後ろから指示を出し始めた。
「‥‥織音。俺の言葉通りに復唱するんだ。そうすれば出来る。‥‥信じてくれ。」
皇希の表情に変化はないが、声には自信がなかった。‥‥都合の良いように自分の行動する皇希を織音が受け入れてくれるのかが不安なのだろう。
織音は後ろの皇希を見ずに答えた。優しさがある声で皇希の不安を吹き飛ばすように。
「言ったでしょう、皇?私は貴方の全てが好きなんだから‥。もう迷わないわ。貴方のその行動や態度は最善だと思うんでしょ?自信を持って‥‥。」
織音は本気だった。‥‥覚醒していたのだ。少し青くなった髪に緑色の瞳。皇希はその様子を見て顔を少し下げた。口元は笑うようになっていた。
皇希は数十秒間、そうしていた。そして、顔を上げる。次はいつもような態度と自信もあるが優しさも混じった声で喋る。
「ありがとう、織音。‥‥俺は俺を信じてなかったようだ。‥‥いくぜ?」
皇希は織音の頷きを確認するとゆっくり確実に喋る。
「‥‥結界よ。我が“愛”に応えよ。その護りは悠久の時の流れからの意志を反する行為なり‥‥。今、我が命ずる‥‥。全てを包み込む“愛”の優しさに身を任せ、時の流れに戻りたまえ。‥‥少し長いが4人分だ。織音の魔力ならこのぐらいだろう。刻印詠唱も含まれている。‥‥結界に触れながら言ってみてくれ。」
確かに長い詠唱だ。どの部分が何の詠唱だろうか。刻印は【愛】だから、“愛”の辺りが刻印詠唱だろうと思われる。
織音は深呼吸する。緊張しているのだろう。初めての刻印詠唱だから無理もない。右手で結界に触れて勇気を出し唱え始める。
「結界よ!我が“愛”に応えよ。その護りは悠久の時の流れからの意志を反する行為なり‥‥。今、我が命ずる!全てを包み込む“愛”の優しさに身を任せ、時の流れに戻りたまえ!」
織音が詠唱を終えると右手と結界の部分が輝き出す。その部分から結界が次々と硝子の自動ドアのように開き消えていく。
織音は少し驚いていた。まるで皇希が簡単に結界を解くように自分にも簡単に出来たからだ。自分の力の限界を知らなかった。
いや、違う。刻印の力、【愛】に覚醒した事で“真の力”が自分に宿ったように感じたかもしれない。
「‥‥その程度で俺を変える事は出来ないからな‥‥」
皇希は目を閉じながら言った。織音の想いや行動などは見透しているようだ。
「解ったわよ。浮かれてた自分に悔しいわ。」
織音はそう言って覚醒状態を解いた。織音は扉の取手を掴み開いた。
「そう。‥‥皇希が望んでいるのは2文字。言うと3文字ね。‥‥でも、簡単に出来る事じゃないわね。」
絢音はそう言った。皇希は一瞬で絢音を背後に立ち、剣が背中に触れるか触れないかだった。だが、絢音に焦りはない。
織音の話を聞いた一言がそれだ。皇希が苛立ちを隠せないようだ。