the back of K.-2
カサッ―
窓の外から、何か擦れるような音がした。
「…?」
私は庭を覗く。
誰もいない。
窓から顔を乗り出し、暗い庭内をもう一度隈無く見渡した。
「きゃっ…!!」
私の見ていた窓のちょうど真下、すぐ下に、夜の黒とは違う"黒"があった。
エメラルドに光る眼…あの黒猫だわ!!
私はすぐに庭に走り込む。
―どうしてあの子が?
もしかして、圭が居るの?
逸る気持ちが私の興奮を高ぶらせた。
「圭っ!?」
私は庭先で叫ぶ。
けれど返事はない。
カサッ―
再びあの葉の擦れるような音。
黒猫の足元に、淡い薄桃色の小さな封筒が落ちていた。
手紙―?
私はそのくしゃくしゃの封筒を手に取り、封を切る。
…。
"私"―?
出てきたものは数枚の薄いクロッキー用紙と小さなメッセージカード。
『ずっと愛してる、』
ねぇ…、これは夢?
待ちわびた手紙がこんな風に届くなんて…。
貴方はいつも、離れていてもいつも、私を思ってくれていたの?
私は、堪えていた涙を流した。
さっきまでとは違う。淋しさの涙じゃなくて、幸せの涙。
「…?」
空だと思った封筒の中にもう一つ、中に残っていた。
"K"
小さなシルバーネックレス。
思わず笑みが零れる。
二人のイニシャル、貴方の名前。
私は幸せを運んできた黒猫を抱き締めた。
「ありがとう」
けれど、黒猫は目を閉じたまま応えない。
冷たい―。
「…」
よく見ると生傷や汚れでボロボロに傷ついている。
私はもう一度、深く抱き締めて、幸せの使者を静かに葬った。
それから三日後、私は彼の死を知った。
最期まで会えなかった私に、彼は最期の言葉を友達に託したのだった。
私は泣いたけれど、不思議と心残りはなかった。
私は彼と彼の親友の二人のために、墓を作った。
全然豪華ではないけれど、彼の親友を埋めた庭に、木材の屑で作った十字架を立てて。
貴方がくれたのと似たネックレスを飾って。
今も、私の胸には"K"が光る。思い出と降りしきる雪と共に…―。