「懊悩の果て」-1
カサッ
その朝、登校した舞が靴箱を開けると上履きの上に4つ折りの紙片が置かれていた。
何だろう…。
不思議に思って紙を開くと中には素っ気ないワープロ文字が並んでいた。
校長室のことで話があります。
12:40にC棟の第二資料室まで来てください。
その文面を読んだ舞の顔がゆっくりと青ざめていく。
入学後も、舞は度々校長室に呼ばれ様々な“テスト”を受けさせられていた。
それは、舞と校長と楼主、それに担任である藤岡しか知らない秘密であるハズだった。
もし、その事が他の生徒にバレたならば舞は二度と学校に来ることが出来なくなり、一生をあの街の中で暮らすことになる。
どれほど酷く楼の姐姫たちにいびられても、舞は学生生活を手放したくはなかった。
舞は唇をキュッと噛みしめる。
その日は時計の進みが遅かったのかと思うくらい、昼休みまでの時間が舞には長く感じられた。
4時間目の終了を告げるチャイムもそこそこに舞はC棟に向かう。
指定された時間までは30分近くあったが、舞は居ても立ってもいられなかった。
ドアを開けると、そこはちょっと古びたお日様の香りがした。
手紙の主はまだ来ていないようだ。
舞は慎重に部屋の奥に進む。
普段、使われていない用具が仕舞われているせいか、部屋は見通しが悪く奥まで見えない。
窓から差し込む明かりを頼りに舞は慎重に部屋を進んでいく。
「電気、点ければいいのに」
不意に入り口から声が聞こえ、舞の体が跳ね上がる。
逆光でよくは見えないが、どうやら教師ではないらしい。
一歩遅れて明かりを点した蛍光灯がやけに眩しい。
「ヤだなぁ。そんなに硬くならないでよ。ボクはただ、別所さんと仲良くしたいだけなのに」
その声に舞は聞き覚えがあった。
「露木くん!?」
それは、舞のクラスメートの男子であった。
少し小太りで、いつもおどおどしている様子の露木はクラスにもあまり友達はいなかったハズだ。
しかし、今の露木からはそんな様子は微塵も見当たらない。
「ほら。少し埃っぽいけど、そこに座んなよ」
顎の先で示された先には布張りの濃茶のソファーがあった。
不本意ではあったが言われるが儘に腰を下ろす。
そのまま、舞の正面か隣の席に座るのかと思いきや、露木は舞の背後に回り込んできた。
両肩に、露木の掌の重みがのし掛かる。
「ねぇ、いっつも校長室で何してんの?」
耳元で囁かれた声は直接鼓膜を揺らされたようで、舞はブルリと身震いをする。
「怯えなくても大丈夫だよ。言ったろ?ボクは別所さんと仲良くしたいだけなんだって」
その言葉とは裏腹に肩に当てられた掌にはどんどんと力が込められていく。