DEAR PSYCHOPATH−5−-2
「チャールズは、ケイコの前世なんですよ。彼女の場合、彼の覚醒で精神が分裂して、このように二重人格になってしまったのです」
「ケイコさんは、覚醒しちゃってたんだ」
「ええ。まだ完全ではありませんが」
「ふ、ふーん。二重人格ねぇ、本当にあるんだぁ・・・って、ちょっと待てよ?
じゃお前はどうなってるんだよ。他のみんなは・・・その、普通じゃないのに。
ひょっとしてお前も彼女と同じ?」
「覚醒と言っても、人それぞれなんですよ。現世の意識よりも前世の常識の方が強かったりすれば、精神破壊を起こして、隆やカムヤのように各々の前世の意識が同じ強さだったりしたらこのように精神分裂を起こして、二重人格が出来あがります。そして私のように現世の意識が極端に強いと、サイコパスという能力のみが覚醒してしまうこともあります。つまり、覚醒の程度もその人物の意識の強さ次第というわけです。まぁしかし、本来正常な働きをしている所へ異物が入り込んでただですむはずがありません。結局全員を待っているのは・・・死、です」
「それじゃあ」
僕は声を奮い立たせて言った。
「それじゃあきくけど、僕が覚醒して死ぬまでの間、僕はお前のように普通に生活出来るのか?それとも他のみんなみたいに、おかしくなってしまうのか」
流は一瞬眉をピクリと動かし、あごをしゃくった。だが、答えは一向に返ってこない。
「どうなるんだよ」
彼は動きをピタリと止め、のぞき込むような目付きでこっちを睨んだ。僕は永遠にも感じられる沈黙を、ひたすら固唾を呑んで耐えた。
と、彼がようやく口を割った。
「おそらく、これはあくまで私の推測でしかないのですが」
「ああ」
「あなた自身に意識は潰されるでしょう。前世の意識、ヘンリーによって」
覚悟はしていたが、実際言われてみるとかなり辛いものだ。僕は二度とない絶望感に唇をきつく噛んだ。
「そうならないためには、方法が一つしかありません」
と彼は付け加えるようにして言った。
「何!」
勢いよく顔をあげる。
「しかし、逆にそれで命を落とす可能性もある」
流とは違う声に、僕の肩がビクリとはねる。チャールズだ。
「命が惜しかったら、覚醒がうまくいくことを祈るんだな」
美人な彼は男らしく言った。
「そんな、チャールズ、彼は一番の戦力になってくれるかもしれませんよ。それに、彼を見つけたのはケイコじゃないですか。忍がサイコパスでなかったら、彼女は彼を見つけることなんて出来なかったはずです」
妙に早口で、流が割って入る。
チャールズは小指の先を耳穴に突っ込むと、ほじり、抜いて、彼に向かって吹いた。
「まぁな。サイコパスは共に引かれ合うっている特徴がなければ、このガキを発見は出来なかっただろう。それに、ここへ来たのも宿命だと俺も思う。過去と現在、前世と今のな。しかし、だからってこんな奴を認めるわけにはいかない」
一体、この会話は何だというのだ?戦力?宿命?そのうえ下手をしたら命を落としかねないって・・・どういうつもりで流は僕をここへ連れて来たんだ?
「おい忍」
親父のような口調で、チャールズが呼んだ。僕は無言で、振り向いた。
「悪いことは言わねぇ。すぐにここから立ち去れ。ここであったことは忘れてな」
「な、何を・・・」
流がそれを遮ろうとしたが、無理だった。
「覚醒がうまくいくのを信じて帰れ」
そんな彼の態度にカチンときた僕は、憤然と彼のえりもとをむしりとるように引き、
「今すぐにでもそうしたいさ。けど、ここまで話を聞かせておいて、今更全てを忘れて帰れだなんて、あまりにも勝手過ぎるんじゃないか?」
何てこと出来るはずもまく、なるべく控えめに、
「せめて話だけでも聞かせてよ。何が、僕の覚醒を止めることの出来る唯一の方法なのか?」
ときいた。
答えは、すぐには返ってこなかった。流は再びあごをしゃくりだし、チャールズは口答えされたのをむかついているのか、こっちをジッと睨みつけている。
答える気がないのなら、無理やりにでもきき出してやる。と、口を開きかけた時、それよりも早くチャールズが言った。
「人殺し・・・さ」