想いのいきつく果て〜揺れる想い〜-6
「…?」
おそるおそる目を開けるとそこに旦那はいなかった。
と同時に玄関のドアが閉まる音がした。
「…都合悪くなるとすぐ逃げる…」
ほっとしたのも束の間、唇が痛みを増してきた。
鏡を見ると赤く腫れあがった唇と頬。
「ちょっとどうしてくれんのよ、私の可愛い顔を…」
鏡に向かってひとり冗談を呟きながら苦笑する。
今更震えが止まらなくなって涙が溢れてくる。
「うぅっ…」
声を押し殺し、うずくまって泣いた。
RRRRRR……
携帯に視線をおとした瞬間、余計に涙の滴がおちる。
「…なんでそんなタイミングいいのよ…」
深呼吸をして息を整える。涙をふき、通話ボタンを押した。
「……」
「もし〜ひろ〜?今平気か?」
しのの明るい声を聞いた瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れた。
無理矢理止めた涙が頬を伝わってポタポタ落ちはじめる。
こんなにも聞きたかった声、私の心にしみ込む声…誰か涙を止めてよ…声を出したらしのが心配する…
「……」
「ひろ〜寝てたんかぁ〜?」
「……」
「ひろ?…どうしたん?…何かあったん?」
しのの声がワントーン低くなり、心配しているのが電話越しにも伝わってくる。
一呼吸おいてやっと声を出した。
「大丈夫よ。」
「!?」
「大丈夫だから…」
「紘子、どしたん?何があったん?なんで泣いとるん?」
あぁやっぱりこの人には何でもわかっちゃうんだ…あったかい気持ちになれて、泣きながらも笑顔になる。
「しのくん、ほんと大丈夫だから」
「ひろ…」
「しのくんの声聞いたらなんか安心しちゃった。電話ありがとう」
「ひろから電話ないからかけたんやけど……ほんま平気か?」
あの人言わなかったんだ、電話のこと。
…言えないか…
「うん。大丈夫。又明日メールするね。」
そう言い電話を切った。
しのは電話を見つめながら紘子を思いやった。