けんぽなし〜再開〜-4
「…瑞希ちゃん…」
太一のお母さんだ。
私は視線を下へ落とした…
だから…
太一のお母さんの表情は分からなかった…
「俺、仲間耕太郎です…覚えてますか?」
「…まぁ、まぁまぁ、もしかして、耕太郎君?」
そう言って私達を招き入れてくれた明るい声に…私は少しホッとした…
久しぶりに太一のお母さんが作ってくれたココアを前に…私は涙がこぼれた…
「…瑞希ちゃん…ありがとう…」
太一のお母さんの言葉が胸に刺さる…
…この涙は…太一のためのものではないから…
関係ないと…耕太郎に饒舌に語った自分が許せないからだ。
私は来るべきではなかったのかもしれない…いや…私にはここへ来る資格がない…
私の涙は止まらない…
突然、耕太郎が立ち上がる。
「…太一の部屋…どこですか?」
「っ…あ、二階上がった突き当たり…だけどあの子まだ…」
耕太郎は太一のお母さんの制止を振り切り、階段を駆け上がった。
耕太郎の後ろ姿を私と太一のお母さんは急いで追った。
「太一、俺、耕太郎…仲間耕太郎だよ、覚えてるか?」
耕太郎は太一の部屋の前で戸を叩きながらそう言った。
返事はなく…しーんと静まり返った空間に、私はただ立ち尽くすことしか出来ずに…
「太一、遊ぼーよー久しぶりだしよー」
耕太郎の明るい声と静まり返った空気とのギャップは耐え難くて…
きっと太一のお母さんもそうだったのだろう…
「なー太一〜遊ぼーよー」
「耕太郎君…ありがとう……でも…もう…」
耕太郎は太一の部屋へゆっくり背を向けた…
固く閉ざされた戸が、私を責めているようで…
不安と
恐怖と
後悔と
……開かない戸に安堵した自分への怒り……
私は立っているのがやっとだった…