そして私は俺になる-9
「まあ、なんでもいいじゃん。そうだな、うちのクラスの橋本さんなんかいいんじゃね? かわいいしよー」
「そうだな。うん、そうしよう」
俺は変だと思われたくなくて、全てケイスケの言うとおりにすることにした。この頃、人と話すと頭の中が真っ白になって、自分が何を言っているのかわからなくなってくる。そしてその時の俺が話す言葉は、自分の意思に無関係に勝手に口から溢れ出しているのだ。
「じゃあ、キョウの時みたいに俺が助けてやるよー」
「そうか、悪いな」
「俺のお陰で成立したカップルってめっちゃいるんだぜ」
「そうか、すごいな」
「…おい。おめーやっぱり変じゃね?」
「…」
どうすれば変だと思われないのかわからなくなって、全身が硬直してしまった。何も喋らなければよいのだろうか。ケイスケが何か喋っていたが、それはとても遠くのことのように聞こえた。
そして、俺はいつものように不安と恐怖でいっぱいになりながら帰るのだ。
橋本由里はあっさりと俺のカノジョになった。こんなに簡単なことなのに、なんで俺は今までためらっていたのだろう。それでも、その理由を思い出すことができなかった。由里は背が小さくてかわいい女の子だったが、性格は大人しくて真面目だった。勉強もできて、うちの学校のトップだった。
カノジョを持つということはいいことだと思った。あんなに脅えていた自分が、嘘のようにいなくなった。今の俺は以前のようにケイスケを見下すこともできるし、番長をいじることもできる。今日も番長で大爆笑したばかりだった。俺と橋本が二人で歩いていたら、番長が金色のカセットウォークマンを両手の上に大事そうに乗せて、鼻歌を歌っていた。そして、こう言った。
「俺、結構ワルやってんのにも慣れてきたからよ、学校にカセットウォークマンなんか持ってきてんのセンコーにばれても全然ヘッチャラだぜ!」
このデブはどこまで俺の腹筋を疲れさせれば気が済むのか。俺はいつものように、番長、さすがっすねと言って、番長がいなくなってから声をあげて笑った。橋本も笑っていた。
今、考えてみると少し前の自分がとてもダサく思えた。うじうじしていて気持ち悪いと思った。なんで、あんな風になっていたのかよく覚えてないが、そんなことどうでもよかった。今はとても良い具合だ。番長をいじれたので、次はキョウと共通の趣味について話し合わなければならない。キョウと俺は親友なので、常によどみなく会話しなければならないのだ。それでも、今すぐにキョウに会いに行くには気分が乗らなかった。とりあえず、今日は塾に行く前にロードショウの今月号を買わなくてはならないと思った。