そして私は俺になる-4
「別に、俺達はキョウのマネをしてるわけじゃねえよ」
ケイスケと小谷が口をそろえて言う。
「そうなんだろうけどさ、なんだかな」
「あん? おめーケンカ売ってんのか?」
ケイスケがドスを効かせた声で凄んだ。ケイスケは頭が悪いから凄めば誰でも大人しくなると思っている。ケイスケの俺たちのグループの中での役割は俗に言う特攻隊長のようなもので、俺の役割は作戦参謀といったところだった。えてして、俺とケイスケは反りが合わない事が多い。
「まあまあ、二人ともやめとけって」
そして、いつもリーダーのキョウがケイスケをなだめるのだ。いつもギラギラしているケイスケもキョウには従順だった。
「そんなことより、俺誰狙うか決めたぜ」
キョウの一言は、俺たちの間に漂い始めた険悪なムードを抑えるのに十分だった。あのキョウが選んだ女が誰なのか、興味ない奴なんていないはずだ。
「誰?」
キョウは俺たちをゆっくり見回してから、言った。
「五組の岡安なぎさ」
「岡安か!」
俺達は三人同時に声をあげた。岡安は、おそらく学校一の美人で、男子からも女子からも人気の高い女の子だった。ショートカットのよく似合う活発な子で、俺が見る限りいつも笑っていた。岡安は男でも女でも人懐っこく話しかけ、俺の仲が良い女の子の一人だった。
「岡安さんかあ。まあ、確かにキョウ君と吊り合う女の子なんて岡安さんくらいしかいないよね」
小谷が妙に納得したように言った。たしかに、キョウと岡安ならお似合いかもしれない。でも、岡安がキョウと付き合うのは嫌だった。今まで誰のものでもなかった岡安がキョウのカノジョになってしまうのがたまらなく嫌なのだ。
キョウは自信たっぷりに宣言した。
「俺、明日岡安に告るぜ」
「はやっ」
俺が妙な突っ込みを入れる中、ケイスケと小谷は、おお! とか言って感心やら驚嘆やらの声をあげていた。
「うん? どうした、テツ?」
「いや、なんでもない、なんでもない」
それから、小谷とケイスケが何か話しかけてきたが、俺は適当に答えながら、俯いて黙々と歩いた。アスファルトの地面は、色んな所に大きなヒビが入っていて、俺は今までよく転ばなかったものだと思った。先に歩いていたキョウが何度か振り返って俺を見た。俺はその度に、軽い冗談を言ってキョウを笑わせた。それでも、頭の中にはキョウが岡安に告白するという事実でいっぱいだった。
キョウは今どうしているだろう。キョウとは成人式以来会っていない。成人式のとき、キョウは色鮮やかなスーツを着ていた。黄色をベースに黄緑やらオレンジやらの模様が入った異常に派手な衣装だった。どう考えても変な服なのだが、誰も何も言わなかった。キョウが変な服を着ても、私たちの感覚が古くてキョウが流行の最先端を行っているのだと思ってしまう。キョウとはそんな男だった。
あの時、キョウが岡安なぎさに告白すると言った時、私は妙な感情を抱いた。嫉妬なのだろうが、それよりももっと複雑な気分だったのを覚えている。今にして思えば、当時の私はキョウも岡安も同じくらい好きだった。だから、キョウと岡安が付き合い始めたら、二人とも私から遠のいてしまうと思っていたのだ。