そして私は俺になる-3
「そういえば、テツ知ってるか?」
「何を?」
ジェット・リーって本名はリー・リンチェイっていうんだぜ。俺はキョウが言いそうなことがなんとなく予想できた。昨日発売の映画雑誌に載っていて、俺もびっくりしたのだ。
「田島と山根さん、付き合ってるらしいぜ」
「はあ、付き合う…ね」
キョウの言った事に、俺は結構驚いた。付き合うって事の意味は知っていたが、まさか知り合いが付き合い始めるなんて思ってもみなかったのだ。なんというか、まだ俺達には早いような気がしていた。
「早いって、お前ね、俺たちもう中三だぜ? 別にカノジョがいたっておかしくないだろ」
キョウが言ったカノジョという言葉の発音が、彼女と微妙に違ったように思えてなんだか特別な言葉のような気がした。
「あーあ、田島いいよなー、あの山根さんだぜ? 俺も彼女欲しいな」
ああ、そうだなと俺は適当に相槌を打った。本心では、全くそんなこと思っていなかった。俺はそんな自分がとても子供じみているような気がして嫌な気分になった。
キョウはヒットメーカーだった。キョウがやることは全て俺たちの中で大流行になる。小学生の頃に、キョウがブリーフじゃなくてトランクスを履き始めたら、俺たちもトランクスを履き出した。キョウがワックスで髪をセットしてきたら、俺たちもワックスを買いに地元のドラッグストアに駆け込んだ。キョウがたまたま買ったガチャガチャまでもが俺たちの間で大流行した。
だから、キョウがカノジョを探し始めたら、それが大流行するのも当たり前だった。俺たちの中学は芋ばかりの田舎中学から、急にませたナンパ中学へと変身を遂げた。男子も女子もお互いに恋人を探し始め、青春真っ盛りといった感じになった。
あなた達は、思春期ですから、異性に興味を持つのは自然な事なのです。保健体育の西山がそんなことを言っていたが、俺にはどうしても今回の騒動が自然な事に思えなかった。例えば、俺たちが塾へ行く前に必ず小川書店に立ち寄ってエロ本を読むことや、ケイスケのお父さんの無修正ビデオを海老沢の家の大画面テレビで見る事などは、自然な事に思える。でも、カノジョを作る事は何か違うのではないかと思った。
「お前、まだそんなこと言ってんのかよ。ガキだな」
帰り道にキョウは俺にそう言った。
「まあ、キョウがさ、カノジョ欲しいっていうのはわかるんだけど。他の奴らがな…。今回はキョウのマネしましたじゃ済まない気がするんだ」
この日は、俺とキョウの他にケイスケと小谷もいた。ケイスケは三組の武田さん、小谷は一組の中村さんを狙っているらしい。武田さんはいわゆるコギャル予備軍で、中村さんは巨乳だった。こうして考えてみると、仲間うちの好みがはっきり分かれていておもしろかった。