そして私は俺になる-11
キョウと話すのは随分久しぶりのような気がする。キョウは以前より、髪が短くなっていた。受験の面接の為に短くしたそうだ。俺もキョウも第一志望の高校に入学することが決まった。キョウの偏差値は三年の夏休みから十近く上がったことになる。
「夏にお前の志望校聞いた時は、冗談だと思ってたんだけどな」
「お前に負けたくなかったんだよ」
今日はとてもいい天気だった。見慣れた学校のベランダの景色がいつもと違って見えるくらいに。俺はキョウに例の事故について話してみようかと思った。でも、そんなことをしても今の俺には必要のないことだったのでやめることにした。
「なんだよ? 黙って」
「なんでもない」
「…変なやつ」
「そうだな。俺は変だし、キョウも変だ」
「なんだ、それ? …てか、お前、橋本さんと別れたんだって?」
橋本由里とはしばらく話していない。一度、謝りに行って、当然のように無視された。由里は志望校に落ちてしまい、その事を俺のせいだと言っているらしい。
「キョウ、俺と橋本が付き合ってたこと知ってたんだ」
「ケイスケがめちゃくちゃ嬉しそうに報告しに来たんだよ」
なんでケイスケが喜ぶんだよと思ったが、ケイスケらしい気もした。
「キョウはどうなん? 岡安と」
「ああ。別に上手くいってなかったわけじゃないけど、別れることにした。別々の高校だしな」
「そっか」
それを聞いて俺は少し安心したが、それが何に対する安心だったのかはわからなかった。
「田島も、海老沢も別れたんだってさ。結局なんだったんだろうな」
「さあな」
校庭で、番長がサッカー部の後輩に何か言っているのが見えた。きっと偉そうに訓示でも垂れているのだろう。あのデブにも困ったものだ。今度一対十一で番長とサッカーでもやろうと思った。
「キョウ、春休み何する?」
「まだ決めてない。お前は?」
「そうだな、俺も何も決めてないんだよね。とりあえず、小谷んちでも行って計画練ろうぜ」
「いいけど、俺、あいつんち狭くて嫌いなんだよな」
それにしても、いい天気だった。理科の浅見が地球の空が青いのは、オゾン層があるからですが、度重なる環境破壊のせいでオゾン層は消滅しかけていますと言っていたが、今日の空を見ていると、浅見が嘘を言っていたのだと確信できた。帰りに浅見自慢のアルファロメオのフロントガラスに手の跡をいっぱい付けてやらねばならないと思った。