レッド・レッド・レッド-1
時はコズミック暦5505年。
大小の宇宙船が行き交い、様々な人種や文化が入り乱れる銀河系宇宙――ギャラクティカ。
宇宙海賊やトレジャーハンター達は財宝を求め、今日も星海を駆ける。
レッド・レッド・レッド
第1章 あれは真っ赤な嘘だったの?
呆然と、エイジとダナは目の前に立つ無表情の女を見つめていた。
鉄格子越しに、女――ジョナ・ダイニングのウエイトレスはエイジを一瞥し、溜息を漏らす。
此処は惑星コズミックポリス。
銀河系宇宙ギャラクティカで毎日のように起こる犯罪を取り締まり、犯罪者達を捕まえ裁く――そんなC・ポリス達を統括する機関を兼ねた惑星だ。
その惑星コズミックポリスの第一留置場に、エイジとダナの二人は勾留されていた。
二人と対峙するウエイトレスは、肩口で切り揃えた茶色の髪を揺らしながらゆっくりと鉄格子に近付いて行き、エイジが腕を伸ばせばその胸倉が掴めるくらいの位置に立った。
その面に、あの愛想の良かったウエイトレスの影は微塵もない。
「あなたはタイミングの悪い方ですね」
その言葉にエイジがぴくりと眉を動かす。
「彼女を保護してすぐにお店に来ていれば、こんなところに入ることもなかったでしょうに」
何やら含んだ物言いだった。
「君……いや、お前はジャムのことを知っていたのか?」
「保護してって……もしかして、最初からそれが目的で情報を渡したの!?」
二人が言うと、ウエイトレスは微かに口元を吊り上げた。
「『お嬢様』のことは、誰よりもよく存じております」
彼女は、ぽかんと口を開けているエイジとダナを見て、くすりと微かに笑った。
「「お嬢様!?」」
二人の驚きに満ちた声が重なる。
「申し遅れましたが、わたしの名前はリム。チュール・コンフィ・ド・マーマレイド様付き侍女兼メイドです」
「「侍女!?」」
再び二人の声が重なった。
「後者の質問ですが、その通りです」
笑みを消し、リムはダナの問いに答えた。
「チュール様に取り付けた発信機が、どうやら例の座標――惑星マヌゥ・シーチで途切れてしまったので、あなた方を利用して捜索させて頂きました」
淡々と答えるウエイトレスに、ダナが食って掛かった。
「何よそれッ! アタシ達を騙してジャムを保護させて、なのに引き渡さないから逮捕!? ふざけるのもいい加減にしなさいよッ!」
「いや、ちょっと待て」
エイジがダナを抑え、神妙な面持ちでリムに問う。
「お前の話だと、あいつの家出のこと、お前は知ってたってことか? それに、発信機だと?」
「わたしだけでなく、旦那様も知っております」
「何ですってェ!?」
リムが言うと、ダナが堪らず声を上げた。
ダナの形相が、怒りのためか更に恐ろしいものへと変わる。
「どーして知っていて、あンな大袈裟なニュースを流したりすンのよ! 『銀河の歌姫失踪』なンてッ!」
「お嬢様を連れ戻すためです」
リムは彼の強面を目の当たりにしても、一向にその表情を変えずに言った。
「あれだけ大騒ぎになれば、いくら頑固なお嬢様でも帰ってくると踏んでいたからです。けれど、それでもお嬢様はお帰りにならなかった」
発信機は、あくまでジャムの居場所と安否だけでも確認しようと思って付けたもの。
彼女を直接連れ戻そうとしても無駄だからだ、とリムは言う。