レッド・レッド・レッド-24
第7章 真っ赤でキレイな色してたからァ
「……もう、観念して下さぁい」
「動かないで! 言ったでしょ、動いたらすぐに撃つんだから」
ジャムはルビィに向かってレイガンを構えていた。
エイジのオートマグと違い、ジャムの最新式レイガンならば、確実にルビィに当てることができるだろう。
ルビィもそれが分かっているから、迂闊には動けない。
エイジとスカーレットが接近戦を始めてから暫く経つが、二人の膠着はなおも続いていた。
「もう、姉さん達早く決着つけてくれないかしら」
そうルビィが零し、彼女はレッドに視線を向けた。
一方で、ダナとレッドは激しい肉弾戦を繰り広げていた。
体格がまず違う上に、力も打たれ強さも圧倒的にダナの方が上である。
それにもかかわらずなかなか決着がつかないのは、ダナもエイジと同じく彼女の素早さに悩まされているからであった。
しかし、それももうレッドの体力次第である。戦いが長引けばダナが勝つのは明白であった。
「ああン、もう! そんな小細工通用しないって言ってンでしょ!」
ダナの腕に巻かれた一本鞭の柄を握り、レッドは言った。
「お前の化け物みたいな力を目の当たりにして、まともに戦うバカがいるかッ!」
そう言って、ダナの身体を捕まえたまま、レッドは隠し持っていたナイフを投げ付けた。
襲い来るナイフをダナは右腕でガードする。
飛来した五本のナイフのうち二本がダナの右腕に刺さったが、彼は全く意に介さない。
ナイフをおとりにダナの懐に飛び込んだレッドの腹に拳を浴びせた。
「うぐッ!」
レッドはすぐさま飛び退き、再び構える。舌打ちをして、レッドは顔を歪めた。
「くそ、化け物かこいつは」
「何よう、聞こえたわよォ!」
ダナは言って、レッドに向かって拳を振り下ろす。
レッドは軽くそれを避けて交わし、ダナの背後を取って蹴りを入れた。
「もォ、すばしっこいわねェ!」
レッドの蹴りなどものともしない。次第にレッドの表情に疲れの色が見えた。
「これ以上やっても無駄よ。諦めて、降参しなさいな」
「ほざけ、オカマ野郎!」
ダナの言葉に、レッドはそう吐き捨てた。
――おそらく遺跡内に響いたであろうこの言葉に、エイジとジャムははっとした。
『オカマ』。
それは、ダナのトラウマスイッチであり――
「てめェ、今何つったァアアアッ!?」
暴走スイッチであった。
「!?」
突然、物凄い形相で拳を鳴らし始めたダナに、レッドが困惑したような表情を浮かべる。
「な、何だ!?」
獣のような咆哮を上げて襲い来るダナ。
壁際に追い詰められたレッドに、ダナは拳を打ち付けた。
「ひッ!」
遺跡内に響く轟音と共に、レッドの傍らの壁が崩れる。
思わずエイジ達も二人の方へ視線を向けたが、一瞬の隙を突かれるまいとすぐに自分の相手へと向き直る。
もしもこの拳が自分の顔を直撃していたかと思うと――レッドは顔を青ざめさせた。
その場からすり抜け、鞭を拾って構えるレッド。
しかし、構えるレッドには目もくれず、ダナは無差別に壁やら地面やらに拳を叩き付けていた。
怒りのあまり、目の前が見えなくなっているのだろうか。
「どこ行ったァアア!! クソ女ァアア!!」
「此処だ、化け物め!」
レッドが声を上げ、鞭を振るった。
ダナの首に鞭が巻き付けられ、彼は苦しそうな呻きを漏らす。
レッドが鞭を引っ張ると、ダナが後ろ向きに倒れた。
「ぐ……ぐう……」
「こ、この……手間をかけさせて」
言いながらレッドはダナの肩を踏み付け、額の汗を拭う。
そして、もう一方の足をダナの顔の上で振り上げた。
「目ん玉潰してやる!」
「ダナ!!」
ダナとレッドの形勢に気付いたエイジが、思わず声を上げた。
彼は押さえ付けていたスカーレットから離れ、ナイフをも捨てて慌ててダナの元へと駆けて行く。
それとレッドが足を振り下ろすのは、ほぼ同時だった。