僕とあたしの夏の事件慕? 第五話 「僕の事件慕」-3
「……あのね、真琴、悪いんだけど、ちょっと部屋に戻っててくれない?」
「いいけど、なんで?」
「梓、少し体調が悪いみたいで、今日は椿さんの部屋で寝るって……」
澪はそう言い残してまた部屋に戻る。
でも、僕が部屋に戻るのと梓さんが椿さんの部屋に行くの、なんか関係あるの?
釈然としないながらも、仕方なく部屋に戻る。
そして、再び澪と梓さんの声。
「……澪、本当に誰もいない」
「……大丈夫よ、みんなまだ食堂にいるから」
「……よう、梓、具合はどうだ?」
「……ちょっと、梓は疲れてるんだから後にしてよ!」
哲夫さんの声に僕は不安になり、ドアを少しだけ開ける。
澪は哲夫さんを睨みつけ、精一杯強がっている。その後ろで梓さんが小さくなって震えていた。
「……ご挨拶だな、俺はただ心配しているだけだぜ?」
「……あんたのせいでしょ!」
「……俺が梓に何かしたって言うのか? いったいどんなことだ? 聞かせてくれよ?」
「……やめて、やめてよ」
梓さんの悲しそうな声に僕はいてもたってもいられず、澪との約束も忘れて廊下に飛び出した。
「何しているんですか!」
怯えた梓さんと驚く澪を庇うように前に出て、哲夫さんを睨みつける。
「なんだオジョウチャン、トイレか?」
にやけた顔で僕を罵倒する哲夫さん。体格的にはまったく敵わないけど、退くつもりなんかない。
しばし続くにらみ合いに、澪はただおろおろするばかり……かといって、僕もこの状況を打開する方法が無い。
「おやおや、皆さんおそろいで。そんなところで見詰め合って何してんの?」
場違いな楓さんの声が、静かな喧嘩を中断させる。
「ああ、なるほど……哲夫さん、残念だけど彼は男だぞ?」
「んなこと、知ってる!」
「じゃあ、そっちの趣味でもあるのか?」
「あるか、バカ! ……ケッ、やる気なくしたぜ……」
ようやく立ち去る哲夫さんに僕はほっとした。それと同時に急に足が震え、尻餅をついちゃった。