僕とあたしの夏の事件慕? 第三話 「引っかかる部分?」-1
【僕とあたしの夏の事件慕】
第三話 「引っかかる部分?」
◇――香川澪――◇
いつもより早い朝、食堂に行くと愛美さんがモーニングティーを淹れてくれた。
ご丁寧に紅茶についてアールグレイだのベルガモットがと説明されたが、あたしには何のことだかわからない。
それでもマスカットの香りがたゆたうと渋みの中のほのかな甘みを感じ、一人悦に浸ることができた。
「ふぁーあ……、おはよう澪、今日も個性的な髪型ね。愛美さん、私にはミルクティをお願い」
「はい、お嬢様」
食堂にやってきた梓の開口一番の言葉があたしを一瞬で現実に戻す。
確かに右は外ハネ、左は内ハネでは風に吹かれているみたい。……にしても昨日は同じシャンプーを使ったのに、どうして梓はいつものサラサラヘアーなの?
カップに半分だけ淹れた紅茶にミルクを注ぐと、黄金色と白のマーブリングが混ざり合う。牛乳を入れただけなのに、すごく美味しそうに見える。今度あたしもやってみようかな?
「それで、今日はどうすんの?」
あたしとしては一刻も早く遺言書を見つけ出し、何処かへ遊びに行きたい。狸の相手なんてしてられないし、夏休みにだって限りがあるんだもん!
「そうね、書斎の方を探そうと思うんだけど、理恵さんがいるからね……」
「……これはどういうことだ……」
突然二階から真二さんの声がした。どうやら怒っているみたいだけど、何かあった
の?
「お嬢様、私が様子を見て参ります」
愛美さんは一礼をしてから食堂を後にする。だけどあたし達も気になり、ひとまずセレブごっこを中断して二階に向かうことにした。
***―――***―――***
部屋の前で狸が一足先に向かった愛美さんに何かを喚いている。
二人の隙間から部屋を覗くと、服や本が散らばっており、小規模な台風でもやってきたような有様だった。
怒りの原因はこれだろうけど、いったいどういうこと?
「真二様、落ち着いてください」
「朝起きたら部屋が荒らされていたのだぞ! これが落ち着いてられるか!」
「他のお客様のご迷惑にもなりますし……」
「犯人は客の誰かなんだ、ワシには調査する権利がある!」
そう言って狸はあたし達の部屋のドアノブに手をかける。
ちょっと、乙女の寝室に踏み入る気?
「ちょ、ちょっと、勝手に入らないでください! 乙女にはプライバシーってもんがあるんですよ!」
「なにが乙女じゃ、小娘のくせに」
「なんでっすって! 梓はともかくあたしは立派な乙女! ギャ・ル・な・の!」
あたしと狸は顔を真っ赤にしてドアノブを掴み合う。
「ない……ないわ……」
しかし、それを椿さんの声が中断させた。
「どうしたの、姉さん」
梓が当主の間のドアを開けると、やはり同じように部屋が散かっていた。
「鍵が……無いの……」
まさか、泥棒までいるの?