僕とあたしの夏の事件慕? 第三話 「引っかかる部分?」-3
「姉さん、夜はちゃんと鍵を掛けて寝た?」
「えっと、もしかしたら忘れてたかも……」
「もう、姉さんは真澄家当主なんだから用心しないとダメよ。誰が寝首を掻こうとしてるかわからないって言うのに……」
梓さんはここぞとばかりに嫌味を言う。真二さんは苦々しそうに舌打ちするけど、あんまり刺激しないほうがいいんじゃないかな?
で、つまり、犯人は椿さんが鍵を開けたまま部屋を出たときに侵入したか、それとも寝ている間に侵入したかのどちらかというわけかな?
「そんなことより、ワシの部屋を荒らした者は誰だ!」
真二さんの怒りは収まる様子がない。まあ、わからないでもないけど、もう少し落ち着いたらどうなのかな。
「おじき、少しは落ち着けよ。どうせ鍵を持ってる奴が犯人なんだろ? 全員の部屋を探せば判ることさ」
「それもそうだな……そういうわけだから皆さん、反対なさらぬな?」
哲夫さんの提案に待ってましたとばかりに頷く真二さん。まるでこうなることを予測していたみたい。とはいえ誰も反対できず、成り行きを見守る。
「わかりました……ですが、最低限のルールとして、女性の部屋は愛美さんに調べてもらいます」
「……フン、仕方あるまい」
真二さんはつまらなそうに鼻を鳴らすと、ソファにふんぞり返る。
痛くない腹を探られるのは癪だけど、これはチャンスかもしれない。
だって、手記を盗んだ人を探す絶好のカモフラージュになるんだから。
◇――香川澪――◇
あたしは真琴の部屋にいる。理由は愛美さんが部屋を掃除していることと、狸達と顔を会わせたくないから。
ちなみに梓も一緒にいる。やっぱり考えることは平民もセレブも同じらしい。
それにしても色々残念な感じ。せっかく梓の別荘に来たのに何が楽しくて鍵なんか探さないといけないのよ?
「ねえ、澪は誰が犯人だと思う?」
「知らないわよ。自分でやったとか、そんなとこでしょ?」
でも、鍵を持っているのは愛美さんぐらいだし……そういえば昨日、梓は信用できないとか言っていたっけ。
「梓、なんで愛美さんを信用できないの?」
急に梓は眉をしかめ、きつい口調になる。
「あの人、パパの事故の後、真二達に擦り寄っていったのよ、信用できなくて当然よ!」
「お、落ち着いて……」
力の有りそうな人につく人なの? そんな風には見えなかったけど。
「前のお手伝いさんはもっとしっかりした人だったのに……」
「ふーん、その人はどうしたの?」
「私が中学校に入る前に辞めちゃって……しばらくは私と姉さんで家のことしてたんだけど、姉さんと私の受験も控えていたし、パパが愛美さんを雇ったの」
受験でお手伝いを雇うものなの? でも、それがセレブというものなのかしら。