under the moon-2
着いたのは、高そうなホテルだった。ロビーにはシャンデリアがあって、いかにも高そうなオブジェがおかれている。
「藤本く」
「旭っていうんです。僕の名前」
「あさ、ひ…」
にこりと、彼は笑った。チン、とエレベーターは目的の階を示した。
「この部屋ですね」
ガチャリと開かれた中に入る。大きな窓が夜景をうつしだしていた。
「僕、シャワー浴びてきます」
パパッと、彼は浴室に消えていった。
私はふかふかのベッドにそっと腰かけた。少し揺するだけで大きくバウンドする。
藤本くんは、きっと私を抱くだろう。
このベッドで。
明けない夜はないんです、と彼は言った。
闇色に染まった空を見た。すごく冷たい色だなぁ。いつもこの空を見て、刹那の愛を求めて。
ないものねだり。高望み。
「……」
胸が痛みだす。ギュッと瞳を閉じて、深呼吸した。少し和らいだ気がした。
「幸子さん」
彼は暖かな空気を纏って出てきた。なんて優しい声なんだろう。
「あっ、私も入った方がいいよね」
いそいそと上着を脱ぐと、藤本くんは、違うんです、ときっぱり言った。
「今日は飲み明かしましょう?そんなことしようなんて思ってないですよ」
だから朝に浴びる方がいいなら朝でいいですよ、とふんわり笑った。
「うん」
朝タイプの私はシャワーを浴びるのをやめ、彼が座るソファーに私も座った。
「ビールでいいですか?」
「うん」
彼は冷蔵庫に手を伸ばし、缶ビールを二本取り出した。
「じゃ、改めて乾杯」
ぼよん、と鈍い音がして、思わず笑った。
「今初めて笑った」
藤本くんは嬉しそうに私を見た。
「初めてじゃないよ」
「いえ、素直に楽しそうに笑ったのは初です」
そういえば、しばらく自然に笑ってなかったかもしれない。あの人の前では無理に明るく振る舞ってきたし、周りにも気を使わせないようにしてきたから。
「景色、綺麗ですね」
そう言って、窓を見ながらビールを飲む彼。
そこから、彼と私は長く会話を交さなかった。話したと言えば、ビールとって、とか寒くない?とか、うなづけば終わってしまう言葉ばかり。でも、目があえばいつも彼は暖かな瞳で微笑んでくれた。それだけでなんだかほっこりした。