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under the moon
【大人 恋愛小説】

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under the moon-1

部長は最近私のことを仕事でもよく呼ぶようになった。
周りの視線が痛い。きっとあやしいなって、思われてるんだろう。





underthemoon





私はコーヒーを部長に入れて、少し言葉を交した後、席についた。自然とため息が洩れる。心が苦しいと嘆いてるから。
「中島さん、ため息ばっかりですね」
隣のデスクの藤本くんが小声で私に話しかける。
「そうかな、疲れてるのかも」
資料を手に取り、パソコンに向かう。横からの視線がまだこちらに向けられている気がして、彼を見た。案の定こちらを見ていて、なんだか哀しそうな顔をしていた。
「疲れてる感じじゃなさそうですよ」


ちくっ

私の胸のなかで何かが刺さった。
「はっ早く仕事しなよ、残業嫌でしょ」
あわてて手元の資料に目を落とす。でも、視線が文字を撫でるだけで全然読めない。集中できない。

この胸の痛みは心にしまうって決めたんだから。

もう決めたの。
それしか方法知らないもの。

「じゃあ、仕事早くしますから、今日の夜僕に付き合ってくださいね」
有無を云わせない言い方だった。彼を見ると、もうキーボードをたたいて仕事に戻っていた。




「おいしいねぇーここ」
「でしょ?僕の隠れ家なんです」
私は藤本くんに連れられるまま、とある居酒屋で飲み食いしていた。
「久々だよーこうして呑むの」
私は手をひらひらして、二杯目のチューハイを頼む。
「部長とは、こうして飲んだりしないんですか?」
「しないね」
「えらくあっさり部長との仲を認めるんですね」
藤本くんも、生ビールのおかわりを注文した。
「だって、もう気付かれてるのわかってるからさ」
つきだしのサラダの中の枝豆を箸でころころ転がす。なんだか部長と私とだぶって見えて悲しくなる。
「辛いんじゃ、ないですか」
そっと彼は箸を置いた。と同時に生ビールとチューハイが運ばれてくる。
「辛くないよ。私が望んだんだもの」
チューハイをぐっと飲んだ。爽やかな炭酸が喉を降りてゆく。
「ただ、闇が消えないだけ。朝は来るのに、私の中の夜が明けないだけ」
そう言って、ハッとした。ポロリとこぼした言葉は取り返しもつかないほどの二人の静寂を呼んだ。
「ごめん、わけわかんないよね!」
はは、と一人笑い、酒を流し込む。哀しい酔いが私を襲う。
「明けない夜はないんです」
すごく真面目な顔をして彼は言った。
「行きましょう」
ガタッと彼は席をたつ。私の腕を引いて。



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