ラブマッチ-永--1
「孫にも衣装だな」
「ありがとう、なんて言うと思ったかキリギリス」
「は?何だよキリギリスって」
「あんたアリとキリギリスって知らないの?」
「いや知ってるけれども」
「キリギリスはね、夏の間あんたみたいな一張羅着て遊び歩いて冬には死ぬんだよ」
「こんな日に縁起でもねぇこと言うなよ。俺の知ってる話じゃアリに助けてもらって改心すんぞ、キリギリス」
「あんたの都合なんぞ知らねーわよ」
「俺じゃなくキリギリスの都合なんだけど…」
「もっと知らねーわよ。心の底からどうでもいい」
「可哀想に。人によって生死が変わるなんて」
「本当に思ってんの?本当に思ってんならあんたのキリギリス武勇伝、全国歩き回って伝えなさいよ」
「別にそこまでじゃねぇし」
「そんな適当な意気込みでキリギリスかばったんだ。それこそぬか喜びじゃん、可哀想に。ねぇー」
「ねぇー。って誰に意見求めてんだよ」
「そこに座ってるオヤジ」
「お、お前、人を指指すなアホ。しかもオヤジじゃなく一応部長な」
「一応?」
「そこ深くツッコムな」
「あのオヤジの話、長ったらしくてめんどくさかったなぁ」
「だろ?昨日、話しは短い方がいいよなとか言ってたくせに、何だあれ。八割自分の世間話だしな。全くあのオヤジは」
「部長でしょ?」
「…」
「だから一応なんだ」
「…」
「話しの流れ変えてあげようか」
「おう」
「あんた猿まで招待しちゃったんだ」
「あの猿だろ?気付かないフリしてたんだけどな」
「それは無理ですって。目はそらせませんって」
「ですよねぇ」
「どうやって入ったんだろうね」
「一生の謎だな」
「でもあんた一生猿から追われる身なんだし、一回ぐらい接近するチャンスあるんじゃない?そんとき聞きなよ」
「やだよ!」
「じゃあアタシが聞いてあげようか?」
「そういう問題じゃねぇんだよ!」