DEAR PSYCHOPATH−4−-3
「何をしているのですか?行きますよ」
流が僕の背中を押して、
「あそこに私たちの仲間がいるんです」
と真剣な顔付きで言った。"たち"ということは僕の仲間でもあるらしい。まったくもってわけが分からなくなってきたが、とりあえず頷く。どちらにしろ、あの部屋に入れば全てが分かることだ。しかし、そう思ってドアのノブを引いたとたん、中から悲鳴にも似た奇声がとび出し、僕は反射的に耳をふさいだ。
「な、何だ。この金切り声は!」
予想もしていなかった事態に当惑して、僕は言った。
「仲間のカムヤですよ」
平然と彼は言った。
「この声が当たり前のことのように言うな」
「当たり前ですから」
その言葉の意味に不安を隠せず、僕は開きかけたドアを間に立ちすくんだ。まる
で、パンドラの箱を目前にしているようだ。
「そんな所で立ち止まってないで、中に入ったらどうです?」
「あ、ああ」
喉が鳴るだけ唾を飲み込み、恐る恐るドアを開ける。部屋の中には僕と流を含めて、五人の男女がいた。一人は女性で、何の仕事だろうか、隅で熱心にパソコンをうっている。彼女は別にいい。何の問題もなさそうな人だ。問題は、あと二人だ。僕は素知らぬ顔で、右はじに座っている男へ視線を向けた。二十代後半か、そろそろ、三十代に入る頃だろう、いや、あのあごの無精髭を剃ればもっと若く見られるかもしれない。歳を感じさせない、金の短髪男だ。彼は白い壁を正面に、何やらブツブツと話し込むという、奇妙な行動をとっていた。それはまるで、彼にしか見えない誰かと、彼らにしか分からない言葉で会話をしているようにもとれる。ちなみに言ってしまえば、さっきの奇声は彼が発したものだ。そして、もう一人。奥にある椅子に座っているのは、小学三、四年くらいの、おかっぱの少年なのだが、彼もまた、とてもじゃないが尋常とは思えない目付きをしている。
彼は小さな円卓上に広げられたパズルを、独り言を口にしながら合わせていた。
僕は、何も言えずに、その場で立ち尽くした。そしてその沈黙を破ったのは、やはり流の声だった。
「みなさん。聞いてください」
彼は手を叩いて鳴らすと、僕の背中を押し、話を続けた。
「彼は今日から私たちの仲間になる、酉那忍さんです」
「ど、ども」
な、仲間ってなんだ?僕がこんなに奇人変人たちの仲間になるというのか?何故?何のために?
「忍、一応紹介しておきましょう。今あそこでパソコンをうっているのは、伊万里ケイコといいます。そしてそこで独り言を言って楽しんでいるのは、さっきも紹介しましたが白井カムヤ。最後に、パズルをしているのが高橋隆といいます。
覚えましたね」
「覚えて何になるんだよ。僕は夢の話を聞いたらさっさと帰るぜ」
心底ここから早く脱出したかった。いつまでもこんな狂った奴らと一緒にいたら、なにをされるか分かったものじゃない。そう思って、僕が夢の話を切り出そうとすると、
「忍っていうの?君」
さっきパソコンいじりをしていた女の人が、立ち上がり言った。あらためて見ると、彼女が驚く程綺麗な顔だちをしていることに気づき、今更ながらドキマギしてしまう。
「えっと」
「ケイコよ一回で覚えてね」
「ああ、ケイコさん」
両手をパンッと叩いて頷く。彼女はうんざりした表情で、短いため息をいた。
「流、この子戦力になるの?」
ケイコさんは僕の隣に立つと、意味不明なことを言って僕の肩に手を置いた。
鈴菜に対する罪悪感をよそに、僕の鼓動が早鐘を打ち始めているのが分かる。
「戦力になるかどうかは分かりませんが、彼が必要なことは確かです」
流はかぶりを振って言った。話の内容を分かっていないのは、どうやら僕だけらしい。