崩壊〜親密〜-2
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「こちらの錠剤を飲まれて、15分おきにこちらを半分づつ飲んで下さい」
待合室に居る仁志に、看護師から500ccの水が入った容器4本が渡された。
先日、涼子の自宅での検査から2日後に連絡が入り、内視鏡検査を2週間後に行うと伝えられていた。
そして、今日の検査日を迎えた。仁志は穏やかな色調からなる待合室に腰掛け、不安な面持ちで水分を摂っていた。
1時間を過ぎたあたりから腹の調子がおかしくなってきた。仁志は検査までの間、何度もトイレに駆け込んだ。
「溝内さ〜ん。どうぞ」
呼ばれて入った室内に涼子は居た。思わず仁志は目を逸す。
「準備出来ましたら、そこのベッドに横向きに寝て下さい」
あくまで事務的な口調の涼子に、躊躇いながら仁志はベッドに横たわる。
「じゃあ、溝内さん。力を抜いて下さいね」
涼子の手が仁志の尻肉を持ち上げる。ファイバーの先端が肛門に触れた。
「…ふっ…う…」
ファイバーが奥へと押し込まれる毎に、仁志の背中に寒気と気持ち良さが走る。異物が逆流していくような感触。
時折、身を震わせる仁志。そんな姿に、涼子は含み笑いを浮かべた。
「…ここ…炎症が有りますね」
涼子は、仁志に見えるようディスプレイを移動させてペンで指し示す。
「このピンク色の真ん中。赤くなってますよね?粘膜が炎症を起こして出血してますね」
涼子の説明どおり、ディスプレイの中央辺りが赤く染まっていた。そんな状況を面あたりにして、仁志は焦りの口調で訊ねる。
「…ど、どうしたら良いんですか?」
「経験から言えば問題無いと思いますけど、生検して腫瘍マーカー(ガン等の検査)で進行具合を調べますから」
「ちょっと…生検って何だよ?腫瘍マーカーって」
「炎症を起こした大腸の一部を切り取って検査するのが生検…腫瘍マーカーは、進行ガンを調べたりする場合に用います」
「お、オイッ!そんなの聞いてねーぞ」
涼子は、ファイバーのハンドルを操作して炎症を起こしている粘膜の一部を切り取った。
「…もう終わりますよ」
涼子は、ため息混じりにそう言うと鉗子とワイヤーで粘膜を掴んだ。