燕の旅童話集(全七編)-3
(二) 冬の街角で
それは、冬の朝でした。
私は、あの悲しい運命の子牛さんの最後を見届けると、重たくなった羽根を無理に動かしてここまでやってきました。
大きなビルや、商店の建ち並ぶ街の上を飛んでいる時でした。
子牛さんと喧嘩をしている間に、私の仲間は南の方へ飛んで行ってしまい、私一人とり残されてしまいました。
そんな淋しい時のことです。
「歳末助け合い運動にご協力くださーい!」と言う声を、耳にしました。
行き交う人は皆寒そうです。
オーバーの襟を立てて、風の冷たさを防いでいます。
誰もその声に答えず、サッサと歩いていきます。
しかし、何か悪いことをしたような顔つきです。
誰も悪いことはしていないのです。
唯、忘れ物をしたような感じなのです。
しかし、それとて仕方のないことかもしれません。
自分を犠牲にして、相手を助ける必要も義務もないのですから。
善意からの心からの助けでないと。
十分に余裕のある、自分にとって不必要なお金でいいのです。
何も、子供のお菓子代を削ってまでその箱に入れることはないのです。
しかし、心残りなのです、
人間なのでしょうー自分を少し犠牲にしてでも相手を助けようとするー私には、理解出来ません。
まわりを見渡しつつ、皆通り過ぎます。
それでいいと、私は思います。
当たり前です、他人のことまで面倒みられません。
誰も、知らんふりして通り過ぎます、すまなさそうに。
鼻の頭を、耳の先を真っ赤にして叫んでいるりんごちゃんを、見る人はいません。
ところが驚いたことに、少し先に行った場所で、オーバーを肩にかけて松葉杖で立っている戦争傷病者の持つお鍋には、次から次へとお金が入っていきます。
その人は、何度も何度も、お礼を言っています。
とてもいい町です。
より可哀相な人を助けているのです。
私の羽が暖かくなりました。
「やっぱり、人間はすごい!」
が、次の瞬間、私の羽は重くなりました。
お金を入れた人達の、物珍しげな目・半ばさげすむような目をしています。
その目を見たとき、雨が降ってきました。
でも、空は青いのです。
ショックでした。
私たち燕は、仲間を助けることはしません。
遅れる仲間を待ちはしません、私が置いていかれたように。
でも、蔑みはしません。
相手の不幸を見て知って、自分を慰めるようなことはしません。
優越感に浸ろうなどとはしません。
人間は皆、不幸なのでしょうか?
私は、一層淋しさを感じながら、仲間に追いつくため飛びました。