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燕の旅童話集(全七編)
【二次創作 その他小説】

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燕の旅童話集(全七編)-4

(三)華やかな出発・惨めな終局


それは、或晴れた昼下がりのことでした。
外には、サンサンとお陽様の光が射しているというのに、この倉庫の中には光が射してきません。
暗くて何も見えません。
何やら大きな物がたくさん置いてあるようですが、はっきりとはわかりません。

屋根のすきまから、たった一筋光が射し込んでいました。
倉庫の隅っこに転がっている、ホコリをかぶったトンガリ帽子を照らしています
どうやらその帽子は、泣いているようです。
そう、シクシクと泣いています。
そのせいでしょうか、その隅っこはジメジメしています。
オヤッ?と、よく注意して見つめると、おやおやその帽子さんにはどこかでお目にかかりました。
見覚えのある帽子さんです。

それは、去年の春でした。
パリにある、大きな大きなお屋敷でファッションショーが開かれた時です。
この帽子さんは、一段高い台の上に飾られていました。
みんなに羨ましがられていました。

”完成美”という標題のついた帽子で、有名なデザイナー=カロダンという人の作品でした。
集まった全ての人達がため息をもらし、見上げています。
そして、口々に誉め讃えていました。
帽子さんも得意顔でした。

私はこの帽子さんに話しかけたのですが、返事をしてくれません。
ツン!としています。
帽子さんは、シャンパンとかいうお酒を空けては大騒ぎをしている人々を見下ろしていました。

「帽子さん!みんなは君を誉め讃えているのではないよ。一流デザイナーという肩書きにだよ、名声にだよ!」
「シャンパンを飲むために、集まっているんだ、ご馳走を食べるためだよ!」と、声の限りに教えてあげたのですが、知らんふりでした。

実は聞いてしまったのです、このお屋敷に集まる道すがらに話しているのを。
「カロダンは、そんなにすごいデザイナーなのかい?」
「そうでしょうよ、皆さんそう言われてますわ。新聞にも載っていますもの。」

私は、帽子さんのことを案じながらも、仲間と一緒に飛び立ちました。
だって、そんな虚栄の固まりの場所では、羽が重くなって自由に飛び回れなくなってしまいます。

あのお屋敷に立ち寄った時、帽子さんはいませんでした。
消えていました。
違う帽子さんが居たのです。
”宇宙の果ての美”と、標題がありました。
その帽子さんに声をかけることなく、私は飛び去りました。
そして今、あの帽子さんはこの暗い倉庫の片隅に捨てられていたのです。

帽子さんが私に気がつきました。
あわてて涙を拭くと、以前の帽子さんに戻りました。
ツンとしたあの帽子さんに。

「あら、あの時の燕さん。ごきげんよう!」
「こんにちわ、帽子さん。こんな暗い倉庫の中では淋しいでしょう?」
「とんでもない、わたくし暗い場所じゃなきゃお寝みできませんの。疲れたので、お願いしましたの。」

もう、何を言ってもだめでした。
捨てられたとは、決して言いません。
プライドが許さないのでしょうか。
泥んこのネズミさんが声をかけても、知らんふりです。

でも、私は、帽子さんの本当の気持ちを知っています。
誰も居なくなった時、帽子さんがつぶやいた言葉を聞いていたのです。

「私は、ネズミになりたかった・・・。」      


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