ストーカー-1
一
俺の名前は櫻井秀次。中学校三年生の冬が終わりきった頃、俺は晴れて卒業を迎えた。そして、進学先も決まっていたこともあり卒業した後はゆっくりしてようと考えていた。しかし、次の日俺は、公園にいた。何故なのかというと、美由紀に呼び出されたからだった。しかし、勘違いしないで欲しいのは、美由紀は俺の彼女でも何でもない。なのにあいつはどういう分けか俺に公園に来てと言った。オシャレをしてね、と添えて。オシャレをしてね、などと言われれば、話だけでは終わらないはずだ。そんな事に時間を費やしたくはない。ましてや、付き合ってもいない女に。
俺がそこまであいつを嫌うのには分けがあった。それはたった一つ、顔が不細工だからだ。学年一。いや、学校一と言っても過言ではないだろう。
しかし、何故俺がそこまで嫌う相手をわざわざ公園で待つのか、というと、答えは単純だ。自分で言うのも何だが、俺は結構かわいそうな人間をほっとけないたちなのである。何とも単純だが、彼女はとても嬉しそうに、オシャレしてね、などと言い電話を切ったのだ。そんな彼女を、いくら大嫌いな女だったとしてもバックれて悲しませるわけにはいなかった。
『ゴメン、待った〜?』
恋人気取りでオシャレをした美由紀は、不細工な顔に似合わないかわいらしい声をつくり、笑顔で駆け寄ってきた。
美由紀の問いかけにはいっさい答えなかった秀次は、めんどくさそうな顔をした。すると、気持ち悪く頬をふくらまして美由紀は言った。
『も〜、答えてよ〜。』
語尾をのばす美由紀にイラついた秀次は、美由紀に問いかけた。
『何の用件だ。』
結構な低い声で言ったことでイラついているのを察したのか、顔が一変した。まじめな顔をした美由紀は、再び口を開いた。
『そんなに私といるのが嫌なの?』
その問いかけには応じない。ハッキリと言うのは怖いのだ。
『ねえ、付き合ってよ。』
ビックリした。そう来るか、と思い一瞬心臓が止まった気がした。目をまん丸にした秀次は、一時時間が止まったようだった。
『お願いしますっ!!』
急にまじめに告白してきた彼女に対して強く言い返せなくなった秀次は、言葉を無くしたままうつむいてしまった。
『俺、オマエと……。』
その先が出てこなかった。どうしても言えなかった。彼女の一生懸命な態度を見ると。しかし、彼女の顔をもう一度見てここはしっかり断るべきだと確信し、決意を固めた。
『その…、俺は、オマエとは………付……付き合え…ない。』
先ほどまで祈るような態度だった彼女の表情は再び一変し、口調までさきほどとはまるで違っていた。
『あっそう、じゃあいいわ。その代わり、一生かかっても貴方を呪ってやるわ。』
そう言い放った美由紀は、振り返るとすぐさま向こうへ歩き出した。すると、もう一度こちらを振り向き、意味深な言葉を口にした。
『そうだ、これだけは憶えておいて。貴方と私は永遠に結ばれる運命にあるのよ。永遠にね。』
この出来事から十年の月日が経ち、二十五歳となった今、この言葉も、この出来事も全て頭から消去されていたはずだった。それなのに、思い出さなければならない日が来るとは思いもしなかった。