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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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高崎竜彦の悩み 〜恋語り〜-1

俺の名前は、高崎竜彦(たかさき・たつひこ)。
 当年とって二十七歳……いや、今年で八か。
 職業は、フレンチレストランでパティシエをやっている。
 弟が一人いるのだけれど、十も年が離れているのに兄弟揃って顔立ちが親父そっくりだ。
 まあ……中身はだいぶ違うし、今の所は弟の方がまだ背が低いから、見分けるのは楽だろう。
 俺は顔も中身も親父似だが、弟は顔が親父似で中身は母親似なんだ。
 弟の奴、愛しい彼女をほぼ毎週末に部屋へ引っ張り込んでは泊まらせている。
 一年経ってもそれが変わらないんだからたいしたもんだと思うし、よくまあその情熱が冷めないなと感心もしてる。
 機会を見つけてそれとなく弟に尋ねてみたら、きょとんとした顔で『別に。僕は美弥が好きだもの』と、まるで当然な事のように言われるし……。
 こいつは両親のいちゃつきぶりを見て育ったから、何年経っても常に愛情の確認をしあうのを当然と思いこそすれ、冷める事はないんだろうなぁ。
 ある意味、羨ましい資質だぞ。
 親父似の俺は、そこまでいちゃいちゃできん。
 そう、俺の元婚約者……今となっては憎悪しか感じないあの女が浮気したのも、もしかしたら俺のコミュニケーション不足のせいかも知れなかったんだ。
 まぁ、それに関しては弟から一笑に付されてる。
 あいつは、そんな生易しい女じゃないからって。
 ……そう言われると、そうなんだろうなぁ。
 っとと、最初から話をずらしまくってしまった。反省反省。


 それじゃ、本題に入ろうか。


 二時までのランチタイムが終わった頃を見計らって、弟とその彼女が時期的にちょっと早めの『春の新作ケーキ試食会』へ参加するためにやって来た。
 弟の名は高崎龍之介(たかさき・りゅうのすけ)で、彼女の名前は伊藤美弥(いとう・みや)。
 顔がそっくりだから自画自賛してるようで嫌なんだが、凛々しい男前の龍之介の横に並ぶ美弥ちゃんは、格別の美人という訳ではない。
 かといって顔立ちが崩れてるという意味合いでもなく、龍之介の横に並んでも見劣りしない程度に可愛いという意味だ。
 美弥ちゃんは外見こそよくあるタイプだが、内面は非常に稀有なものを有していると思う。
 知り合った頃に龍之介の暗部をまざまざと見せ付けられたのに、龍之介の事を好きになってくれたんだから。
 しかも見せ付けられた暗部が原因で女性ならば実の母親の接触すら生理的に拒否するようになってしまった龍之介が、嬉々として触れる女性なんだ。
 これだけで、俺はこの二人を祝福する気になった……まぁ、龍之介が選んだ女性なら、明らかに不釣り合いな女の子でない限りは祝福する気だったんだが。
 季節の新作ケーキ試食会なんて口実を作って二人を呼び寄せてるのは、割と味にうるさい龍之介から率直な意見を聞くのと同時に、甘い物好きな美弥ちゃんを接待する目的もあったりする。
「こんにちは」
「お邪魔しま〜す」
 毎季に呼び出すもんだから二人共すっかり慣れた様子で、眺めのいい席に陣取る。
 俺は二人に挨拶すると、仕事が始まる前に作っておいた季節の新作ケーキを出した。
 一口サイズのプチケーキにアレンジしたそれらを、二人は美味しそうに試食する。
 一口でも味は分かるし、何よりも美弥ちゃんが以前お腹のサイズアップを気にしていたというので、俺はプチケーキを出す事にしている。
「んまっ!ん〜まあぁ〜っ!」
「うん、なかなか」
 おぉ、いつの間にか試食してやがる。
 どれどれ反応は……と……うわぁ。
 めちゃくちゃ幸せそうにケーキを頬張る美弥ちゃんと、冷静に味の採点をしてる龍之介。
「んまひいぃ〜……」
 だくだくと涙を流さんばかりに感動してくれるのは嬉しいが……美弥ちゃん顔、崩れ過ぎ。
「おぉ」
 思わず俺は、呟いた。
 なかなか面白い顔になっている美弥ちゃんを見る龍之介の視線が、本当に優しい。
 一年も経てばさすがにあばたもえくぼ状態からは抜け出てるだろうし……うぅん、惚れてるんだなぁ。
 ……っとと?
「ほら、美弥。クリーム付いてる」
 龍之介が手を伸ばして、美弥ちゃんの頬に付いた生クリームを拭った。
 あっ!!
 龍之介め、味な真似を……。
 指に乗ったクリームを舐めた龍之介は、くすくす笑っている。
 どうやら試食へ夢中になっていたらしい美弥ちゃんは、真っ赤な顔をして龍之介を見た。
 う〜ん、仲のおよろしい事で。
 ――試食会が終わると、二人は帰っていった。
 まぁ……家でいちゃつくんだろうというのは、想像に難くない。
 そして、俺が帰る頃までには熱い時間を過ごして……。
「!」
 いかん、下世話な想像が入ってしまった。
「はぁ……」
 ついでに、ため息が漏れる。
 俺がひそかに危惧しているのが、これだった。
 俺の元婚約者を初恋の相手に選んだ弟は今、その結果を多少は乗り越えて楽しい恋愛を満喫している。
 で……俺としちゃあ困った事に、一つの想像が頭の隅にこびりついてるんだ。
 すなわち……女の好みが一緒だったらどうしよう、ってな。
 自慢じゃないが俺は親父のおかげで客観的に見ても整った容姿をしているし、そのおかげで十代の頃はそれなりに恋愛を楽しんできた。
 対する弟は二度目の恋だから比較データが圧倒的に不足しているものの……たぶん、女の好みはよく似ている。
 弟の彼女を好きになるなんて、冗談じゃないぞ!


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