過激に可憐なデッドエンドライブ-1
景色は赤く染まっている。
真冬の夕暮れ。引き締まった空気の中で弾ける熱気。
地面を踏み鳴らして、申し分ない一撃が繰り出される。
頬を何かが掠める感覚。
息をつく間もなく、腹部をガードする。
上段から中段への連続攻撃。
しかし、この相手はそれだけでは終わらない。
わずかに上体を逸らすのが窺える。
すでに接近しすぎている距離から上段蹴り。
しかし、俺はすでにそれを読んでいる。
返す手で上段をガードすると、態勢の崩れた相手の顔が無防備になっている。
「もらった!」
最高のタイミングで俺の左手が相手の顔目掛けて伸びた。
景色は赤く染まっている。
吸い込む空気が喉を焦がしそうな程熱い。
ついさっきまでは色とりどりの花が咲き乱れていたのに。
私の好きだった庭は今、見る影もなく炎に包まれている。
これは現実? それとも悪夢?
そんな疑問を打ち消すような阿鼻叫喚が至る所から聞こえてくる。
楽園と謳われた城は、もはや地獄と化している。
火の粉が飛ぶ、炎に覆われた花畑。
押し寄せる熱気にドレスの裾が揺れる。
「お逃げください、姫様!」
物々しい鎧に身を包んだ男が背後で叫んでいる。
「…逃げる? この私が、か?」
母や父との思い出がつまった場所。
そんな庭園に別れを告げるように目を閉じて背を向ける。
「舐めるなッ、剣を持てい! 一人残らず返り討ちにしてくれるわ」
他の誰が逃げても、私だけは逃げるわけにはいかない。
この金色の瞳にかけて。
完全に決まったと思われた突きは、あっさりとガードされた。
どれだけ反射神経がいいのか。
あまつさえ、余裕の笑みを浮かべている。
その笑みに苦笑いを返して、同時に飛び退る。
仕切りなおし。
今度はこちらから仕掛ける。
意表をついた左回し蹴りでの、牽制。
普通、回し蹴りはモーションが大きく一撃目では敬遠されがちだった。
しかし、俺の回し蹴りは威力を殺した分、コンパクトで鋭い。
惜しくもガードされたものの相手の顔色が変わるのがわかった。
ちょっと優越感。
二撃目、再度のコンパクトな左回し蹴り。
同じ手は喰らわないとバックしてかわされる。
狙い通り。
回し蹴りはフェイク。虚しく空を切った回し蹴りを、そのままの勢いで地面に振り下ろす。
重く響きわたる足音。
そしてその左足を軸として、身体に十分な回転を与える。
目まぐるしく変わる景色。
リーチが倍の後ろ回し蹴り。
ムチのようにしなった右足が、相手の喉元に伸びる。
今度こそとった。
「―くうっ」
思わずといった感じで洩れたうめき声。苦渋の表情。
ざまあみろ! と思った瞬間、景色が更に加速して流れた。
身体が浮く感覚。
意識がスローモーションのように流れながら、青い空が目に写る。
遅れて背中で感じる衝撃。
「はあ?」
何が起こったのか全く理解できなかった。