過激に可憐なデッドエンドライブ-8
「…キリーは、鴻池さんみたいなのどうなの?」
するとキリーがさわやかに笑いながら言った。
「あはは。先輩たち何言ってるんですか。女なんてピーーーしてピーーーしちゃえばみんな一緒ですって!」
「…」
「…」
「キリーって大人だなあ…」
その一言でロダン以外が押し黙ってうつむく。あの美形でエグいことを言われると、誰もが押し黙るしかなくなるのだ。
これさえなければいい後輩なのに…。そう思いながら学校へと気だるく歩いた。
そして学校に着く頃には、あの奇妙な二人組みのことなんかすっかりと忘れてしまっていた。
見知らぬ街をただ一人で歩く。
見知らぬのも当然か。
なにせここは異世界なのだから。
一応知識だけはあるものの、見るのも触れるのも初めてのものばかりだ。
驚くほど多くの人間、光る看板、信じられないスピードで走る自動車。
それら全てに、お前は部外者だと告げられているような気がする。
途方もない孤独感。
今、この世界に私の味方はいない。
「でも―」
私はなんとしても戻らなくてはならない。
このまま戻っても意味がないのはわかっている。
もっと力を得ねば。
私自身の力はもちろん、忠実な臣下、豊富な戦力を手に入れなければならない。
そして、天界に攻め込んで、臣下たちや、他の兄弟、そして父上を―。
「…」
自然と足が止まっていた。
なんとなく横を見ると、商店の硝子に見るも無残なモノが写っている。
燃え盛る城から逃げ延びて約一日。
煤けたドレスを隠す為にと纏ったボロボロの布。その隙間から覗く顔は、真っ黒で髪もパサパサに乾いている。目は窪み、唇はひび割れている。
「…まるで乞食だな」
思わず自嘲してしまった。心なしか、周囲の人間もこちらを見ているような気がする。
この身なりでは仕方ない。
「ふふ」
なんとなく自分の情けない姿を見ていたら、覚悟がついた。
強く気高く、周りからは畏怖され、それでも、自分たちには誰よりも優しくしてくれた。
そんな父は死んだ。兄弟達も恐らくは一人を除いて生きていまい。
「ふう」
息を吸い込む。
ここから始めるのだ。
もう自分に捨てるものは何もない。これだけ落ちたら、あとは昇るだけだ。
覚えておくがいい、この私をこんな目に遭わせたことを後悔させてやる。
あの憎き父の仇に―。
「…実に勇ましい」
突然の声に驚いて顔を上げる。
「誰だ」
そこ立っていたのは、長身の男。
上品そうなスーツに白いコートを羽織っている。
夕日を背にしているため、表情は見えない。いや―。
「…お前」
逆光で陰った男の目が、赤く光っていた。
「ようこそって言うべきかな。お姫様」
咄嗟に男との距離をとる。
「そんなに警戒しないでよ。ボクはアナタの味方だよ」
何もしないというように男が両手を広げる。随分、頭の悪い話し方だった。しかし、その目は殺気に満ちている。