過激に可憐なデッドエンドライブ-6
「ところであなた。今日は運命の出会いがあると出ています」
「は?」
え、何? 坊主じゃなくて占い師?
「と同時に金運アップ、健康運良好、今日のラッキーカラーはドドメ色です。あ、ついでに死相も出てます。ははは。ナムアミダブツ」
「なんじゃそら!」
ケンカを売られている。俺は史上稀に見る勢いでバカにされている!
「ふう、しかしあなた品がないですね。まるでチンピラのようです」
よし、殴る。なんの躊躇もなく心に決めた。
「あるいは、ワザとなのかもしれませんが、本当の自分を偽るのは感心できませんね」
「はあ?」
変なことを言う坊主だ。俺自身の振る舞いに、本当も嘘もないだろう。
「まあ、仕方ありません。どうか私の――のことを頼みますよ」
「え?」
最後の方が上手く聞き取れなくて聞き返す。
「テツ、おっす!」
その時、突然誰かに肩を叩かれた。
「うおっ!」
不意に現れたのは同じ空手部のロダンだった。
なぜか心臓が飛び上がりそうなほど驚いてしまう。
「テツくん、おはよー」
「テツ先輩おはようございます!」
さらに立て続けに二人に声を掛けられた。
筋骨隆々で朝から暑苦しいロダンと、マネージャーのさくらと、見た目だけは超絶美形の後輩キリーである。
「なんだなんだ、朝からシケたツラしてんなあ!」
そう言いながら、ロダンにがしっと肩を抱き寄せられた。
「え、いや今変なおっさんに―」
ケンカ売られてて、と言おうとして愕然とする。
今しがた盲目の托鉢僧と、フランス人形のような少女がいた場所には、誰もいなかった。
あたりを見渡してみても、あの異色の二人組みの姿はない。
「変だな…」
「テツくん、大丈夫?」
さくらが心配そうに首をかしげた。
「ああ、なんでもないんだ。まだ寝ぼけてたのかな」
それにしては随分リアルだったし、むかついたような…。
「なんだなんだ、しっかりしろよ、テツ!」
そう言いながらロダンがバシバシと俺の背中を叩く。
ロダンはギリシア彫刻のような彫りの深い顔に、見事な体躯を兼ね備えている。いかにも格闘家といった感じだが、意外とビビリで空気も読めないので、部内での地位は後輩より低い。残念な人だった。
「テツくん朝弱いもんね」
「マジで眠いし」
「ははは、テツ先輩らしいですね」
キリーがさわやかに笑う。白い歯がキラキラ光っているように見えるのは気のせいだろうか。
まあいいかと思いながら四人で通学路を歩いていると。
「あ、桐山君おはよー」
「ああ、おはよう」
イケメンのキリーには至る所で黄色い挨拶が飛んでくる。一緒に歩いていて恥ずかしいくらいだ。
「…ほんとにキリーはもてるよな」
「女子の間でキリーくん有名だもんね」
そうさくらと褒めるとキリーはわずかに照れながら微笑んだ。
「もう、からかわないでくださいよ」
はははと後頭部に手をやるとサラサラの髪がわすかに揺れた。ここまでは完璧なイケメンだった。
が、しかし。
「はっは。ったく羨ましいぜ! ちょっとは俺っちにもわけてくれよぅ!」
ロダンがこいつめとか言いながらキリーの首に暑苦しく腕を回す。
そのとき、キリーのさわやかな笑顔が一瞬凍りついた。
「…さわるなクサレ○○○野郎」
「……」
顔だけは今までどおりのさわやかさを保っているものの、その口からは信じられない放送禁止用語が飛び出した。
そのあまりのギャップにその場が凍りつく。