過激に可憐なデッドエンドライブ-52
「よ、よく知っているのだな。テツヤのことを」
「友達だから」
そう言うと、鳴滝京はにこりと微笑んだ。さらに恥ずかしくなってしまう。キライだ、この男は苦手だ。
「!」
突如、感じる違和感。
微かな魔力、強い殺気。
しかし、辺りを見渡しても怪しい影は見えない。
「しまった」
いや、周りには私たち以外、誰もいなかった。先ほどまで下校中の生徒がたくさんいたはずなのに。
「なに、これ…」
背後の中川さくらも異変に気づいたようだ。残りの男二人も身を堅くしている。
結界内。
いつの間にか、敵の罠に嵌っていた様だ。
「お前たち、身を低くして隅に隠れていろ!」
三人を守るように立って、爪を出す。
それを待ち構えていたのように姿を表す異形の者たち。
大きい。二メートルはある。
「ワーウルフ人狼族…」
かつて焔やドラクロワと同じように人間界に堕とされた一族。たしか吸血鬼の一族と敵対していたはずだが…。
人間のように二本の足で立つ狼の化け物。全部で十体以上はいる。
涎を垂らしながら大きな口を開く獣たち。
それらが一斉に飛び掛ってきた。
「速い!」
渾身の斬撃。
目の前に来た二体を薙ぎ払う。
「くっ」
しかし、多くが脇を抜けて走り去った。
後ろには、人間達が!
慌てて振り返ったとき、目を疑う光景を目にした。
「なんだお前ら!」
「グルル…キャン!」
中川さくらと力比べをしていた大男が、人狼の一体を素手で殴り飛ばしていた。とても素人とは思えない訓練された動き。
「はあっ!」
驚くべきは大男よりも鳴滝京で、流れるような滑らかな動きで人狼族を次々と倒して行く。あの笑顔を振り撒いていた少年とは思えない強さだった。
「なんだろう、こいつら。いつもの不良たちと違うよ!」
掌で人狼の長く尖った顎を突き上げながら、鳴滝京が叫ぶ。
「お前たち、本当に人間か?」
呆れながらも、嬉しい誤算だった。三人で中川さくらを囲むように円陣を組む。
「なんなのこの人たち。リリムさんのファン?」
「そんなわけあるか」
まず第一に人ではないと思いながらも、人狼を爪で引き裂く。
刹那、聞こえる耳障りな音。
それは人狼族が次々と転移してくる音だった。
「うお、また出た!」
「くそっ! 鷹山、さくらを頼む。今出てきた奴は、僕が蹴散らす!」
言うが否や、飛び出す鳴滝京。そのまま出現したての人狼族に乱入。次々と、巨大な人狼を倒して行く。
その背後では、少女を守りながら鳴滝京の討ち漏らした敵を殴り倒す大男がいた。
見事な連携だ。
しかし、それでも敵の数は多い。始めは十体ほどだったのだが、今まで倒した数はその倍はある。
私はともかく、これ以上続けては後ろの二人が持つまい。いくら強いとは言え、人間なのだ。
それに、私の考えが正しければこの人狼族をけしかけたのは…。
「やあ、お姫様」
突然、横から物凄い衝撃を受けた。
「ぐはっ」
そのまま反対側の建物に衝突する。
次いで辺りに砂埃を撒き散らしながら、瓦礫と共に崩れ落ちた。
「この前は、突然邪魔が入っちゃって悪かったね。だから、今日改めて君をデートに誘うよ」
突然現れる金髪の美男子。
ふざけた声で近づいてくるのは、間違いなくヨシュア・ドラクロワだった。