過激に可憐なデッドエンドライブ-49
「もしかして、私の行動に変なところがあったか?」
まず何よりも、お前のアタマがおかしい、と言いたいのを必死に堪えて常識を説明した。
「…質素を美徳とし、過度な贅沢は控えるべきである。そう学生手帳に書いてあるじゃないですか」
地面に倒れたままで生徒手帳を差し出す。
「…本当だ。もう、初めから言えばよいのに」
そう言いながら、コイツめっみたいな感じで軽く小突かれた。
「…すいません」
なぜか謝ってしまった。
さてとか言いながら、さっぱりとした顔でリリムレーアはメリケンサックを袋にしまう。
その袋にはクマさんがプリントしてあった。
ちょっとかわいかった。
「…ていうか、俺をここに連れ出す時、なんであんなに手際よかったんスか」
「ああ。あれは夕子が、テツヤをシバく時はああやって人目を避けろと…」
「…余計なことを」
しかも、俺をシバくって予め想定されてるし。
「まったく、勘弁してくれよな。だいたい、なんで学校になんか来たんだよ?」
なんだか疲れて、体育館の壁に背を預けて座り込んだ。
そこは日陰になっていて心地良かった。
「人間に興味があったからかな」
リリムレーアは空を見上げて、ポツリと呟く。
「どういう意味だ?」
正直、あまりいい気分ではなかった。やっとの思いで、俺にできた学校という名の居場所に土足で踏み込まれているような気がして。
「人間は私たちと違って余りに不完全だ。食事や睡眠をとらなければ生きてゆけない。その上、必死に生きても百年足らずで死んでしまう」
風がリリムレーアの銀髪を揺らせるのを見つつ、俺はその言葉に耳を傾ける。というか、今物凄い爆弾発言を聞いたような。
「ってお前は死なないのかよ!」
「うむ。物理的に殺されない限り私たちは不滅だ」
何を今更、とでも言うかのようにさらりと答えるリリムレーア。
「…だからかな。時折、人間が眩しく見える。限りある生の中で足掻いて、足掻いて。果ては、私たちには考えもつかないような術式を編み出す。人間とは偉大な者達だな」
何かを思い出すように言葉を紡ぐリリムレーア。その瞼の裏には誰がいるのだろうか。
「…とんだ化け物だったんだな。あんた」
昔、俺に術式を教えてくれた人に聞いたことがある。この世界に不死の者はいない。あの吸血鬼の一族ですら死ぬのだ。それなのに目の前の女は死なないと言う。
「人間からすれば、確かにそうだな。が、しかし…」
てっきり鉄拳が飛んで来ると思ったのに、リリムレーアは全く気にせず涼しい顔すらしている。しかし、その目が細められた時、とんでもない事を口走った。
「同じように人間からすれば、お前も化け物だ。お前の祖先は私たちと同じ。つまりその血を引くお前も、同じように人間ではないのだ」
その言葉に、全身から血の気が引いていくのがわかった。
「ふざけるな! 俺には何の力もない。お前らみたいな化け物と一緒にするな」
「まあ確かに、お前の祖先が人間界に堕とされた時に不死性は無くなったそうだが、お前たちの力は圧倒的だ。なぜ自分の一族が人間界であれほどの力を持っているか考えた事はないのか?」
リリムレーアの金色の瞳は俺を圧倒するように輝いていた。
「お、俺には実家なんて関係ない! 俺は普通の高校生としての暮らしを選んだんだ!」
「…お前が普通の人間だったらそれも可能だろうが、焔一族の後継ぎである限り普通の暮らしは不可能だ。さだめだと思って諦めろ」
さだめ。どいつもこいつも同じようなこと言いやがって。
「もう勘弁してくれよ!」
「…勘弁しない。お前は私の家来なのだから」
目の前に立ったリリムレーアが腰に手を当てて見おろしてきた。
そんなリリムレーアの目線と真っ向からぶつかり合う。