過激に可憐なデッドエンドライブ-45
「ホラ、テツヤ!」
リリムレーアに数メートル先から呼ばれた。
まだ唖然としている人ごみを掻き分けて、リリムレーアを追いかける。
(おい、あの美女誰だよ)
(見たことねえよ、転校生?)
(いや、留学生じゃねえ? 外人っぽいし)
(ちょっと、あの帆村くんが鞄持ちしてるわよ)
(えー、ちょっとショックー)
再び時間が流れ出したようにヒソヒソ話を始める周囲の目線を肌で感じながら、輝かしかった学校生活に暗雲が立ち込めるのを感じた。
ホームルーム開始ギリギリで席に教室に着いた俺は、クラスメート達から好奇の目で迎えられた。
「おい、帆村! 校門で外人に話し掛けられてたってホントかよ?」
今朝の出来事はすでに広まりきっているらしい。
アホ面を浮かべた男友達が一斉に押し寄せてくる。
「…いや、ホントじゃない。幻だ。きっと、校門の近くにケシの花でも咲いてて、みんな一斉にラリったんデスヨ」
見苦しくも誤魔化してみた。いつのまにかデスヨと言っているのに愕然とする。
ああ、それが本当だったらいいのに…。
「はあ? 何言ってるの、お前」
当然のごとく、信じてもらえなかった。
同じクラスのさくらが不自然にあさっての方向を見つめていることを除けば、クラス中の目が自分に向いている。
「いや、だから、その」
進退窮まってしどろもどろになっていると勢いよくドアが開いた。担任が教室に入ってきたのだ。
ああ、助かった。
そう思って胸を撫で下ろしていると。
「コラァアア! お前ら、何をやっているかああ! さっさと席に着けえぇええ」
担任のやもめ矢茂目先生は、なぜか俺以上にテンパっていた。
いつもより三オクターブは高い声で唾を飛ばしている。
その勢いに、空気を読むのだけは上手いクラスメートが一斉に席についた。
「いいかあ、お前らっ! 今から転校生を紹介する! くれぐれも、万が一にも、絶対に、例え地球が消滅しようとも、仲良くして粗相のないようにぃ!」
「…」
四十台も半ばを過ぎても独身の矢茂目先生は、目を血走らせ、鼻息をふんふんと荒くつきながら、口角に泡を作って唾を飛ばしている。
普段はいいオジサンである担任の豹変ぶりにクラス中が引いていた。
「どうぞ、お入りください。あ、その扉の所少し段差になっているんで、気をつけてくださいね」
急に腰を低くした矢茂目先生が、教室の外に向かってペコペコと頭を下げている。
先生に促されて、ゆっくりと教室に入ってくる人影。
俺はその人影から必死に目を背けて、空を見つめた。
ああ、今日はいい天気だ…。
ざわざわ。
しかし、教室の喧騒に現実逃避を妨げられた。
「こちらがぁ、やんごとなき理由で某国からお忍びでご留学されることになったリリムレーア・ド・キャメロン・ルーシー・バリュモアさんだ!」
「…」
思わず机に突っ伏した。
やんごとなき理由ってなんだよ! 某国ってどこだよ! ていうか、名前、うさんくせえ!
心の中でツッコミをあげまくる。
声に出さないのは、あの女とは無関係だと無言の主張をしたかったからだ。
「おおー、すげえ金髪だ!」
「…きれい、足細いー」
しかし、うちのクラスは寛大な人間が多いようで、みんなあっさり受け入れていた。
「静かにしろ! 言っておくが、リリムレーアさんはさる高貴な身分の方で、今回ご本人たっての希望で下々の暮らしを体験してみたいと仰られている。みんな、全身全霊でご案内してあげるように!」
うおお、お忍びとか言ってるくせに即ばらしてるうう!
心の葛藤は続く。