過激に可憐なデッドエンドライブ-44
「姫様、着きやした」
すると、すっと長い足が車から地面に降りた。
次いで現れる銀に似た淡い金髪。艶かしい肌に金色の瞳。すらりと伸びた体躯はモデルの様だった。
高級車から降り立ったのは、見るもの全てが自分の目を疑うかのような美少女だった。
鷹山のせいで集まってしまったギャラリーが一斉に息を呑む。
鷹山とさくらも惚けた顔をしていた。きっと驚いているのだろう。
そんな中で、俺はその美少女を見て全身蒼白になっていた。
冷や汗が止め処なく滝のように流れてくる。
その少女は紛れもなく、この学校の制服に身を包んだリリムレーアだった。
そういえば、そんなことを言っていたような…。いや、でもそれにしては早すぎるような…ってアレ?
「おお、テツヤ。相変らず間の抜けた顔をしているな。おはよう」
耳触りの良い透き通った声でむかつくことを言うリリムレーア。こちらに気付いて近づいて来る。
「…何してんすか。コスプレっすか?」
震える声でようやく尋ねると、リリムレーアは首をかしげた。その動作に周りが更に息を呑む。
騙されるな。この女は、この動作で目潰しとかするんだぞ。
「コスプレ…? 一昨日、話してあったと思うが今日から私もこの学校に通うから、よろしくな。夕子が何から何まで整えてくれた」
ニコニコと喋るリリムレーアは上機嫌だった。
どんだけ手際が良いんだよ…。なぜか夕子の悪意を感じるのは気のせいだろうか。
「まずは、職員室に案内してもらおうか」
そう言いながら歩き出すリリムレーアの鞄をすごく自然な動作で受け取って、後ろからせこせこと付いて行こうとして…。
「ってオイ! なんで俺がそんなこと」
危ない危ない! いつのまにか奴隷根性が刷り込まれている。
「…ふふふ、テツヤ」
ニコニコと上機嫌のリリムレーアに見つめられた。
リリムレーアは極上の笑みを浮かべている。
「はっ!」
しかし、俺は見た。その笑顔の合間に、一瞬底冷えのする鋭い眼光がよぎったのを。
殺られる…。
第六感でそう悟った俺は…。
「あ、こっちっス」
意地もプライドも投げ捨てて強者に従うことにした。
「うむ」
リリムレーアが満足そうに頷く。と、その時!
「ちょっと待った!」
そう声を掛けたのは、金剛力士像のような顔で怒る鷹山だった。
「てっちゃん、浮気のことは許してあげるから俺の胸に飛び込んでおいで!」
「イヤだよ。だってお前、胸毛生えてるじゃん」
普通に嫌だったのでそう言うと、鷹山は真っ白になって崩れ落ちた。
「…前もって言ってくれれば剃ってきたのに」
高山が小さく呟いた。
「ま、待ってください!」
燃え尽きた高山に変わって立ちふさがったのはさくらだった。
「何か用か?」
リリムレーアがその金色の瞳でさくらを見つめる。
「うう…」
それだけでさくらはたじろいだ。
「無理もねえ。姫様はあのお嬢とメンチの切り合いで勝ったお人だ!」
突然、ベンツの運転手が声をあげた。
夕子とそんなことしてたのか…。
「どうした? 用がないなら行くぞ。テツヤ」
さくらのことが気になったが、リリムレーアに呼ばれたので歩き出す。
「さくら、また後でな」
さくらの脇を通りすぎる時にそう声をかけた。
「…ばか」
小さくそう呟くさくら。
その姿に胸が張り裂けそうに…。
なったと思ったら、盛大な張り手を喰らった。
「テツ君のバカ! しばらく口きいてやらないから!」
そう言い残して走り去るさくら。
「よし、傷心のさくらにつけこむチャンスだぜ。げへへ」
ガッツポーズをしながら追いかけるロダン。その手には『女を落とす百の方法』という本が握られていた。そして、そんなロダンの最低な呟きにムカッとした顔をしたキリーが凄まじい勢いで追っていく。
そんな騒がしい友達を見送りながら、俺は頬を擦りながら空を見上げた。
俺、悪くなくね…。