過激に可憐なデッドエンドライブ-43
「あの女って誰だよ?」
「背の高い外人さん…」
答えたのは鷹山ではなくさくらだった。
なぜだか機嫌が悪い。
「ダークさくらになってるな」
いつのまにか現れたコウサクが呟いた。
ダークさくら。それはいつも元気なさくらのふて腐れモードだった。
かつて空手部の合宿で海に行った時、たくさん遊べると喜んでいたさくらを五日間ほったらかして練習に熱をあげていたらダークさくらになっていた。
背の高い外人といえば、考えるまでもなくリリムレーアのことだろうな。
そういえば、帆村の家に行く前に空手部の面々とは顔をあわせていた。
「ていうか、お前らが何を勘違いしているのかは知らないけど、あの女は結構ギリギリだぞ。ていうか、アウトだぞ」
数時間一緒にいただけで身体中アザだらけになるんだぞ。
「アヤシイ」
「うん。どんな関係?」
鷹山とさくらに睨まれる。
普段ケンカばかりしているのに、なぜか今日は仲良しだった。
「ど、どんな関係って…」
―今日からお前は私の家来だ。
―ほほほ。姫様、家来なんて生ぬるい。下僕とか奴隷のほうがテツヤさんは喜びますよ。
―誰が喜ぶか!
一昨日の会話を思い出す。それだけで背筋が冷たくなった。
「た、ただの知り合いデスヨ」
そう誤魔化すと、突然目を輝かせた鷹山が指を突き出した。
「てっちゃんは、ウソをつくときデスヨと言う!」
そ、そんなクセがあったのか!
「しまった」
思わず膝を折りそうになった。
「しまった、ということは本当にウソをついたのね…」
「ふふふ。そういうことだね、さくら君」
「なっ―」
はめられた!
ふふふと誇らしげに笑う鷹山とさくら。そんな二人を前に汗を垂らして立ちすくむ。
どんな三文推理小説だよ…。
「さあ、決着をつけましょうか。例の女を呼んできなさい!」
腕を組んだ鷹山が高らかに叫んだ。
その横では、さくらが少し恥ずかしがりながらも視線を投げかけてくる。
「お前ら…」
呼んで来いって…。こいつにはあの女の恐ろしさがわかっていないのだろうか。
ていうか、なんの決着を着けるんだよ。そもそもピザの出前じゃないんだから、呼んだってすぐに来るわけ…。
キキーッ。
その時、派手な音がして一台の黒塗りの車が校門の前に止まった。
高級車のメルセデスベンツだった。
「…は?」
突然、現れた謎の高級車に、その場にいた全員の動きが止まる。
俺たちに向いていたギャラリーの注意が一気にベンツの方へと移ったのだ。
そして静かに運転席のドアが開かれると、そこから強持ての男が出てきた。
(うお、怖っ!)
(…ヤクザだ)
(顔にすっげえ傷あるし…)
その場の全員が、車から降りた男に恐怖する。
男はその鋭い眼光で一同を睨みつけると、急に慌しく回り込んで後部座席のドアを開けた。