過激に可憐なデッドエンドライブ-42
「あっ、テツ先輩おはよーっす」
キリーが眩しすぎる笑顔で挨拶を返した。相変らず朝一番のキリーはさわやかだった。
「おう！ テツ、どうしたい、寝坊か？」
いつもどおり暑苦しいロダン。
「…あ、テツくんおはよう」
なんだか元気の無いさくら。
「おはよう。…どうしたさくら？」
当然のごとくロダンは無視して、さくらに目を向けた。なんだか今日のさくらはしょぼんとしている。
「ううん、なんでもないんだけど…」
そう言いながら、さくらは俯いてしまう。
「おう、なんださくら、俺っちに言いたいことがあるなら言えって！ ＴＰＯなんて気にすることないんだぜ！ いつでもどこでも俺っちはウェルカムさ！」
ロダンが大きな声でそう言いながらさくらの肩をぽんと叩いた。
「…テメエ、マスかいてる汚ねえ手でさくら先輩に触れてんじゃねえよ！」
さわやかさを捨て去ったキリーが拳をバキバキ鳴らしながら、ロダンを睨みつけた。
「ひ、ひいいいい！」
よっぽど恐かったのか、ロダンは目を見開いて両手を挙げた。軽く引くほどのビビリ方だった。
「…テツくん、あのね？」
そんな二人をあっさりと無視したさくらがおずおずと見上げてくる。
「うん、どうした？」
「あの、その、昨日はね。ご、ごめ…」
「てっちゃあああん！」
その時、さくらの言葉を遮ったのは赤いママチャリに跨って爆走してきた鷹山だった。
べし。
すれ違い座間になぜか高山のラリアートを食らった。自転車に乗ってのラリアートは強烈で、軽く意識が飛びかけた。
「ぐはッ！ 鷹山、てめっ」
「もう、なんなのよ！ バカ部長」
俺とさくらが同時に文句を言う。背後では、ロダンがキリーに土下座をしていた。
校門の手前できいっとママチャリを止めた鷹山がゆっくりと振り返って言う。
「俺は、許さないんだからっ！」
かっと目を見開いて宣言された。
「…何を？」
「こないだの浮気のこと忘れたとは言わせないゾ！ 俺は、俺は深く傷ついちゃったんだからっ！ あんなに、俺の身体を弄んどいて、ワアアアアア！」
意味不明のことを叫んで獣のように泣き崩れた。その動作があまりに芝居がかっていて、むかついた。だから、殴ることにした。
「アアッ！」
大げさに仰け反る鷹山。その動作が少し色っぽかったので、また殴った。
「くっ！ 殴るなんてひどい！」
しなを作ってよよよと泣き崩れる鷹山。横でさくらが鳥肌を立てて硬直していた。それほど今の鷹山は気持ち悪かったのだろう。
でも、あれは冗談だ。演技なんだ。そう必死に自分に言い聞かせた。
(なになに、どうしたの？)
(なんか、帆村が鷹山を弄んだんだってよ)
(え、あの鷹山君を…、ていうか、どうやって？)
気付くと、回りには結構な人だかりが出来ていた。
ゴリラ鷹山が急に昼ドラのような愛憎劇を始めたのだから無理はない。けど。
「おい、お前のせいで俺まで変態みたいな目で見られてるじゃねえか！」
どうしても我慢ならずに叫んだ。
周りの目線が痛い。
穴があったら入りたいと言うのはこういう気分だろうか。
誰か、誰か助けてくれ！
そう思って横のさくらを見る。すると、こちらを見つめていたさくらと目があった。
「…(プイ)」
さっと目を逸らすさくら。
「！」
唯一の味方だと思っていたさくらにも捨てられた。
「ふはは。今日だけはさくらも俺の味方だ！ さあ、ケリをつけてやるからあの女連れてきなさいよ！」
男らしくするんだか、オカマをやるんだかはっきりしない鷹山がどーんと腕を組んで立ちふさがった。