過激に可憐なデッドエンドライブ-40
「なんか縁ができちゃったな」
突然出会った謎の女は、実は自分の関係者だったらしい。しかも、ずっと死んだと思っていた母絡みの。
「…」
母親が生きている。
にわかに信じがたいことだった。確証はどこにもない。
「というか、今更そんなこと言われたってな…」
あの時は勢いで頷いてしまったが、実際に自分が母親に会いたいのかどうか、正直わからない。
でも、気になるのは確かだ。このままリリムレーアについていれば母に会えるのだろうか。
母さん。
暗い夜道を歩きながら、かつて見た母の笑顔を思い出していた。
その部屋は贅を凝らした造りになっていた。
家具は西洋の一流ブランドのもので統一され、壁には高そうな絵画が掛かっている。置物や時計なども意匠が凝らしてあり、どれも高級なものであることが窺える。それらのものは全て、現在では紛失または喪失したとされる美術品だった。
「よかったんで? お嬢」
その部屋のソファーに深く座った和服姿の女に、傍らに立った堅気ではない雰囲気の大男が尋ねた。
「何がですか」
ソファーに座った夕子は面倒くさそうに金をあしらった煙管を咥えた。すぐさま傍らに控えた別の男が火をつける。
「あの娘のことです。殺っちまうはずだったんじゃ…」
ふうと夕子が紫煙を吐いて窓の外を見つめた。
「口に気をつけなさい。丁重にもてなすようにと申し付けたはずですよ」
華奢な夕子の言葉に大男がたじろぐ。
「い、いやあ、そりゃちゃんと上等の部屋に通して使用人をつけましがね。あの娘の名前が魅力なのはわかりますが、他の奴らを黙らすだけなら別に生かしとく理由はないし、若様にも大きな負担になるだけだって、お嬢ご自身でおしゃってたじゃないですか」
大男の言葉を半ば聞き流しながら、夕子は黙考する。
リリムレーアのあの目つき。あれはあんな少女がして良いものではなかった。一体、どんな修羅場を見てきたのか。
あの娘が見た目通りのお姫様だったら、さっさと物言わぬ従順な死体にして、その威光だけを利用するつもりだったのだが。
「考えが変わったのです。竜族の姫君を殺したことが洩れたら大変でしたし、親族達の抑えも効かなくなったでしょう」
「そりゃあ、そうですが、ちゃんと内密に処理するつもりで…」
おずおずと大男が言う。
「秘密はいずれ明かされます。それに、姫様の出された対価についても興味がありますの」
呪われた運命から解き放つ。あの娘は確かにそう言った。
焔の一族が君臨する力の源となっているものを呪われた力と言ったのだ。
かつて伯母も同じようなことを言っていたように思う。
「強い力を禍のように言える者は、真実、強い者なのかもしれませんね」
それを成人していない半人前の竜族が言うとは、ただの世間知らずなのか、とんでもない大物なのか。
「それも一種の解脱、か」
現実主義者であると思っていた自分の口から出た意外な言葉に夕子は驚いた。
「ふふ、しばらくは様子見ですわ。今のところ、あの方は本物のお姫様です。そのつもりで接しなさい」
威厳を漂わせた夕子の命令に、その場にいた柄の悪い男達が一斉に頷いた。
身体を徹底的に苛める事にした。
時間は夜中の2時を過ぎている。それなのに一向に眠くならなかった。
今日は昼間に部活もやったし、久しぶりに実家に帰ったりもした。肉体的にも精心的にも疲労しているはずなのだが、身体が疼くのだ。
もういつものメニューを何セットやったかわからない。
ただただ、身体を動かし続けた。
そうしていればいつか眠くなるはずだった。
しかし、襲ってきたのは睡魔ではなく、別のものだった。
腕立て伏せをしていたら突然視界がぼやけた。
視界にあった自分の手がいくつにも重なって見えたのだ。