過激に可憐なデッドエンドライブ-29
「うう、テツくんの…テツくんの…」
リリムレーアも動きを止めてさくらを見る。
「どうした、さくら?」
「…テツくんの浮気モノ!」
なぜか頬を叩かれた。
そのままさくらは泣きながら走り去っていく。
「え、なんで? ってちょっと、待てって。さくら!」
慌ててさくらの後を追おうとする。
が、しかし。
「おろろーん、てっちゃんに弄ばれたああ!」
下手くそな泣きまねをした鷹山に壮大な張り手を貰った。
そして、鷹山もドスドスと走り去る。
「…意味わかんねえ」
そうしてじんじんする頬をさすっていると。
「くそう!」
突然、ロダンが寄ってきて腕をつねった。
「うらやましくなんてないからな!」
そう言い残して同じく走り去ろうとするロダン、の首根っこを捕まえる。そしてボコボコにした。さくらと鷹山に張られた頬の分も添えてボコボコにした。
「ふむ、なんだかよくわからないけど、お邪魔みたいだから俺たちも帰るわ」
更にコウサクと残りの部員までもが立ち去っていく。
そして後には俺たち二人だけが残された。ロダンもいたのだが、倒れて痙攣していたので放っておくことにした。
「ふふ、元気な人間たちだな」
意外にもリリムレーアは愉快そうに言った。
「ああ、変態だけど気はいい奴らさ! じゃ、そういうことで…」
「待て」
相手は外人ということでアメリカ映画風に言ってみたのに失敗した。
「今、何時だ?」
顔は笑っているものの、とても冷たい声で聞かれた。
「あ、四時過ぎてますね…」
「約束は何時だったかな?」
「たしか昼の零時だったような」
「問題です。私は何時間待ったのかな?」
「…四時間?」
「そう。よくできました」
ぷす。
問答無用に目を指で突付かれた。
「ぎゃああ!」
禁断の技、目潰し。
「失明したらどうするんだ、てめえ!」
「…てめえ?」
リリムレーアの目がすうっと細くなる。
「あ、失明したらどうなさるおつもりですか、姫様…」
「笑ってやる」
「わ、わーい」
とりあえず喜ぶしかなかった。だって恐いんだもの。
「こんなことやってないでさっさと行くぞ」
「え、マジで行くの?」
からんと、角材を持ち直す音がした。
「あ、こっちっス…」
身体が自然に反応していた。
「それと、その棒きれは置いて行きましょ。使い道ないですし」
「あはは。面白い冗談だ」
リリムレーアがとても可愛らしく笑った。
それでもなぜか冷や汗が頬を伝った。
学校のある綾野駅から七つ目の駅、そこから更にバスで二十分、そして徒歩で二十分。市全体を見渡せる高台に帆村の家は建っている。
随分学校から離れていたので、着いた時には既に日が落ちていた。
帆村の家は、昔の武家屋敷といった感じだが、母屋に別棟、たくさんの蔵が建てられ、庭を含めると驚くほど広大な面積になる。その広さは何坪とかではなく東京ドームが何個分といった感じだった。