過激に可憐なデッドエンドライブ-28
「そんなことするんだったら、早く帰って部屋で音楽でも聞いてた方がよっぽどマシだ」
まあ、キョウには勝ちたいけど。
「へえ、テツってどんな音楽聞くの?」
鷹山がさりげなく俺の肩を撫でながら聞いてくる。なぜかセクハラという単語が頭に浮かぶ。
「え…?」
「そういえば私も気になるな」
さくらも話に入ってきた。
「おう、よくぞ聞いてくれたぜ! 俺っちが好きなのは魔法少女べホマズンっていうグループで…」
なぜかロダンが替わりに答えてくれた。どんな癒し系アーティストなんだよ。
「あ、そう、へー。で、テツくんは?」
無表情でロダンに答えるさくら。
「ド、ドヴォルザークとか…」
そういえば音楽番組とかは全く見ない上に、新しいCDも興味ない。流行の話題にはとことんついていけなかった。
「誰だそれ?」
「ふーん、クラシックだっけ」
子供の頃よく見に行ったコンサートとかで気に入った曲などは今でも聴く。バッハ、ハイドンなんかも良い。歌がある奴だったら、ワーグナーとか…ってなんか違うか。
「そういえば、テツってカラオケ行っても滅多に歌わないよな」
「そうだね。あ、じゃあこれから行かない? カラオケ」
さくらが余計な提案をする。気づけば俺たちが歩いているのは駅の近くの繁華街の辺りだった。少し入り組んだ路地がたくさんあり、カラオケ屋の数も多かった。
「ば、ばか、ヤダよ。あそこ音が大きくて嫌いなんだって」
必死に首を振るも、さくらにがしっと腕を捕まれる。
「ええ〜。行こうよ」
「ははは。さくら、テツなんか連れてかなくても俺が一緒に行ってやるよ。俺っちの歌を聞いてとろけるなよ」
救いの手を差し伸べてくれるロダン。不覚にもちょっと格好良く見えてしまった。
「はああ!? 何寝ぼけたことほざいてんだよ、ハラワタ引きずり出して豚に食わせるぞコラ!」
「ひ、ひいいい! ゴメンナサイ」
しかし、何やら切れているキリーに秒殺されてしまった。
「おい…」
その時、誰かに肩を捕まれた。きっとさくらが無理矢理カラオケに連れて行こうとしているに違いない。
案の定、振り払おうと逃げても、物凄い力で引っ張られる。
なんでこの娘はこんな時だけ謎の怪力を発揮するのか。そういえば、ただのマネージャーのくせに砲丸投げの記録が市内最高記録に迫ったらしい。おそろしや、おそろしや…。
「このバカ!」
突然、そんな罵声と共に後頭部を強烈なラリアートが直撃した。
「いてっ!」
驚いて振り返る。すると、そこに立っていたのは。
「遅すぎるぞ、お前! 私を待たせたらオシオキだと言ったのに!」
大きな布を全身に包んだ謎の人物だった。腕を組んでぷりぷりと怒っている。
誰だっけと思ったのも束の間。布の隙間から印象的な金色の瞳が覗いている。
「あ、昨日の…」
リリムレーアとか言う名前の偉そうな少女。
そう思い当たって愕然とする。
そういえば、待ち合わせの場所ってここの奥じゃないか!。
何やってんだ俺! 間抜けにも程があるだろう。自ら罠にスキップで飛び込むようなことして…。もともと、行く気ゼロだったのに!
「何が、昨日の…だ! さて、約束どおりオシオキを実行しようと思います。ふふ」
そう言いながら拳を鳴らすリリムレーアは、なぜか嬉しそうだった。
「ちょ、待てって。どっからそんな角材出したんだよ!」
「うるさい。お前を待っている間に見つけて、これでどんなオシオキをしてやろうと考えていたのだ! ふふ、ふふふ」
結構暗いなこのコ…。
じりじりと間合いを詰めてくる自称お姫様のリリムレーア。
そんな時、なぜかさくらのすすり泣く声が聞こえた。