過激に可憐なデッドエンドライブ-27
「テツヤ。どうだった?」
練習の手を止めてキョウが駆け寄ってくる。
「なんともないってさ」
ホントは全身ガンに冒されているっていわれたけど…。
「そうか。良かった」
抜群の笑顔で笑いかけるキョウ。そんなキョウの額には玉の汗が浮かんでいた。
「どうした? 随分気合いれてやってるな」
ふと周りを見渡してみると、川田やロダンも必死になって身体を動かしている。
「今度、白玉学園と練習試合することになったんだよ」
キョウの練習相手だったコウサクが肩で息をしながら答えてくれた。
「白玉学園? 全国大会の常連じゃないか」
隣の県にある強豪校だった。うちのような無名校と練習試合をするなんて考えられない。甲子園などでもよく名前を聞く有名スポーツ校だった。
「文法先生のコネと、こないだの暮内杯でお前らがワンツーフィニッシュしたからだろ」
文法先生は自身が高名な空手家で、至る所に名前が知られている。
「暮内杯のときはキョウが優勝候補をばしばし倒しちゃったからで、俺が二位だったのはオマケにすぎないだろ」
去年の十二月に行われた暮内杯という空手のトーナメントではキョウが優勝、俺が準優勝だった。文法先生がいるのに輝かしい実績の全くなかったうちの空手部では珍しい快挙だろう。
「そんなことないよ。決勝のテツヤ戦が一番危なかったもん」
キョウが笑顔でフォローしてくれる。もう今朝の不安は大分消えたようだ。
「試合開始一分で勝ったくせに…」
ポイントは五対六。接戦まで持ち込んだものの、負けは負けである。
「ああ、思い出したらムカついてきた。勝負だ、キョウ!」
そう言い放つと、俺は着ていたウインドコートを脱ぎ捨てた。
日が傾き始めていた。
練習が終わった後、みんなでだらだらしていたらこんな時間になっていたのだ。
「テツ、今日どうした? なんか動きが鈍かったような」
学校を後にしながらコウサクが呟く。
そう、今日の俺は最悪だった。キョウには勿論、鷹山やコウサクにまでコテンパンにやられ、キリーにすらてこずる有様だ。
「わかんね。なんか身体が重くてさ」
まるで自分の身体じゃないみたいだった。昨日の夜、変な夢を見て眠りが浅かったのだろうか。
「…テツくん、もしかして昨日の」
さくらが遠慮がちに口を開く。なんだかさくららしくなくて、胸が痛んだ。
「大丈夫だって。ただの寝不足だよ」
心配するなというように笑ってさくらの頭をぽんぽん叩いた。
「ちょっと待ったああああ!」
突然、背後から鷹山が文字通り飛んで来る。
「昨日、昨日って、この俺が先生と先生の車ごと引っ張ってうさぎ跳びしている間に、てっちゃんに何をした、この女狐が!」
なぜか特訓がパワーアップしていた。昨日ついてこないと思ったら、結局特訓していたらしい。
「何したって私たちの勝手でしょ!」
即座にさくらが反論する。その姿はいつも通りの元気なさくらだった。
「な、なんてナマイキな! 許しませんっ。せめててッちゃんかキョウかどっちか一人にしろ…ってキョウは?」
オカマモード全開だった鷹山が急に素に戻る。
「居残り練習」
先生とマンツーマンでもう一時間以上やっている。白玉学園との練習試合に燃えたんだか知らないが、今日のキョウはやけに熱心だった、
「ほう…エースの自覚だな」
鷹山が感心したように顎に手を当てて言った。
「置いてかれるな…テツ」
コウサクがしたり顔でぽんと肩に手を置く。
「ほっとけ!」
「わはは。いつも怠けてるんだから一緒に練習してきたらどうだ? キョウに勝てるかもしてないぞ」
そう言うお前は練習しないのかと、笑っているコウサクに聞いてみたい。