過激に可憐なデッドエンドライブ-25
「…じゃあ、せめて保健室で診て貰って」
後ろを向いて涙をぬぐうさくら。
「保健室って…。そんなところ行ってもしょうがないだろ」
「ははは。普通ならそうだけどね。うちの保健の先生は東大医学部出で、医学博士にもなったことのある凄いオバちゃんなんだよ」
なんでそんな人が保健の先生やってんだよ…。
まあ、だるい最初の準備運動がサボれるならそれもいいかなと思った。
「失礼しまーす」
そもそも休日なのに保健の先生いるのかよと思いながらも、保健室のドアを開けた。
「…」
返事はない。まあ、当り前か。
でも、今戻ると楽々準備運動に間に合ってしまう。少し憂鬱だった。
「ああ、なんですか?」
その時、どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
がたがたと動く奥の衝立。
そこから白衣を着た長身の男が出てくる。更に、看護婦さんの格好をした女の子。
あれ、なんかデジャブ。もしや、今日はデジャブの日?
「どうしたのかね?」
よいしょとイスに腰を降ろす白衣の男。ていうか確か保健の先生はオバちゃんだってキョウが言ってたような。
「いやちょっと昨日怪我したんですけど、大丈夫か診て貰えないかなって」
「はいはい。判りました。じゃあレントゲン撮るから上着脱いでね」
そう言いながら、使い捨てカメラを取り出す男。
「ってオイ!」
思わずびしっと突っ込む。
「なんですか? これはドイツ製の最新式のエックス線撮影機ですよ。バカなのに知ったかぶりをしないように」
「あ、すいません…」
自信満々に告げる男に、思わず謝ってしまう。なんだか馬鹿って言われたような気がしたが、気のせいだろう。
「はいはい、行きますよ。ぱしゃっとね。…はい。撮れましたっと。ああ、見事なアホ面が写ってましたね〜」
あれ、また馬鹿にされた気がするけど、きっと気のせいだろう…。なんせ東大出の保健の先生なんだから。
「はい、まずは脳の写真からね」
今ので脳まで撮れるのかよ!
いやいや、なんたってドイツ製だからさもありなん…。
「はい、これ。見て」
そう言いながら男は看護士さんのつもりらしい少女から受け取った脳の写った黒写真を貼り付ける。ていうか現像するの早いな。
「小さっ!」
そこに写っているのは、子供の握り拳くらいしかない小さな脳で、まるで猫のようなっていうか耳が付いてるし、あれ、これ猫だな。
「はい、耳が付いてるのはアナタが趣味でやってることなんだから文句言わない!」
趣味でやってねえよと思いつつも、なぜか怒られる。
「はい、で次は肺の写真ね。はい、これ。見えるかな、この白い影? そう、ガンです」
「ええええ!?」
突然のガン宣告に驚いた。
「はい、でコレは胃で、すい臓、肝臓、腎臓、子宮ね。はい、そうですね。全部ガンです」
「なんじゃそら! って子宮ないし!」
どんだけ不健康な身体なんだよ、俺。ていうか既に手遅れだし!
「はい。その通りですね。ナムアミダブツ」
ちーんと言うように手を合わせる白衣の男。
ああ、そんなわざわざ手を合わせて頂いてご丁寧にどうも…なんてするかああ! ていうか、なんでこんなコントにいつまでも付き合っているんだ俺は!? というより。
「お前、こないだの坊主じゃねえか!」
どう考えても目の前の二人は昨日の朝に駅であった托鉢僧と嫌に美形の女の子だった。
「…少しふざけ過ぎ」
男の傍らに立っていた女の子が口を開く。
「いやいやふざけてませんよ。私は医師としてこのチンピラに生命の危機を告げようと…」
「誰がチンピラだ! ていうかお前こないだは坊主だったじゃねえか」
そう言い放つと、男は至って真剣な表情になって口を開いた。