過激に可憐なデッドエンドライブ-24
「昨日のことか…。ってお前らこそ無事なのかよ」
何故だが二人は大丈夫という根拠のない自信のようなものがあって、二人の安否の心配すらしなかった。
なんでだろう、俺と同じように二人も危険な状況にいたのになんで俺…。
「うん。僕らはなんともないよ。あの金髪の人は燃えちゃったし…」
「燃えた?」
突然窓から入ってきて、俺を刺して、最後は燃えちゃうなんて…。
どれだけ変態なんだよ!
「テツヤこそあの高さから落ちてどうやって助かったの?」
キョウに痛いところを突かれた。
まだ泣きじゃくるさくらの頭を撫でてやる。
正直、自分でもわからないのだ。
記憶が全くない上に、気づいたらリリムレーアとかいう女に踏まれていたのである。
はっきり言って、その辺はよく考えたくない出来事だった。むしろ忘れたい。
「…ええと、その、あの」
考えたくはないが、実家の手の者が助けてくれたのかもしれない。俺が気づかないだけで、ずっと監視されていただろうことは予想がつく。
あのクソババアの手下達だったら、あの金髪も秒殺だろうし、落下する俺を救出することも可能だろう。
でも、それなら尚の事忘れてしまいたい。
「…着地した」
「え?」
「だから、着地したんだよ! 地上百メートルから落ちて三回転半捻りで着地したの!」
苦しすぎる言いわけ。
「す、すごいよ! さすがテツヤだ。離れ業得意だもんね」
目を輝かせて納得する天然。なぜか胸がちくりと痛んだ。
「…もう、ホントに、死んじゃった…かと思ったんだから」
胸元でさくらが呟く。随分と落ち着いたようだ。
「ごめんな、さくら」
本当に申し訳なくて、乱れたさくらの髪を直してあげた。
「昨日、あの後、警察の…」
まださくらの呼吸は荒く、喋るのが辛そうだった。
「病院で軽く診察を受けた後に、警察の事情聴取を受けたんだけどさ」
それを見かねたキョウが後を引き継ぐ。
「なんかおかしいんだ。昨日の事を少し聞いただけで事情聴取は終わっちゃって、最後にこのことは忘れなさいって…。さっき見てきたけどクイーンズには今もパトカーが何台も止まってて…」
このことは忘れなさい。
その言葉を聞いただけで全て確信した。
間違いなく実家が絡んでいる。何もかも金や権力で解決しようとするあの家らしい。
「もう何がなんだかわからなくて…」
珍しく項垂れるキョウ。
無理もない。入っちゃいけない領域なのだ。
俺たち普通の人間は。
「すごく、こわかった。テツくん、刺された所大丈夫なの?」
さくらが俺の胸を心配そうに擦る。でも、不気味なことに俺の胸には傷一つないのだ。
それだってババアの部下が密かに術で治療したに違いない。
「…大丈夫だよ」
二人を安心させるように、出来るだけ優しく言った。
「キョウ、さくら。このことは忘れよう」
「えっ?」
「警察にも言われたんだろ。俺たちが知っちゃいけないこともあるんだ。昨日のことは忘れるんだ」
二人の目に俺の表情はどう写ったのだろうか。
納得のいかないことが余りにも多すぎただろう。
それでも二人は、ゆっくりと頷いてくれた。
「…わかった。テツくんの言うとおりにする。でも―」
不安そうに何かを口にしようとして躊躇うさくら。
「…でも、本当になんともないの?」
キョウも心配そうに見ている。
「大丈夫だって。なんともないだろ? これからの部活で証明してやるよ」
腕時計に目を落すと、既に練習開始の十分前になっていた。さぞかし鷹山が腹を立てていることだろう。