過激に可憐なデッドエンドライブ-23
土曜日の朝は嫌になるくらい晴れていた。
「…だりい」
休日で比較的空いていた電車を降りる。
「…」
昨夜、変な悪夢を見た。そのせいか全く寝た気がしない。
昨日は大分疲れていたのに。
というか、どこまでが夢だったのだろうか。
昨日のあの女、最後に影に飲み込まれるように消えた。やはり一般人ではないのか。
空間転移術式。
相当高度な術式だった。俺には逆立ちしたってできない。
術式とは、超常の力を持って行われる奇跡のこと。色々な呼び方があるが、魔術、陰陽五行や陰陽道、風水や真言などにシャーマニズムなどを加えた全てを指す。
でも、俺はそんなややこしいことをするよりも空手をやっている方が何倍もマシだった。
もっとも、俺にはやりたくてもできないんだが。
胸を刺す、嫌な事に思い当たって必死に考えるのを止めた。
今の俺には関係のない事なのだから。
「もしかしたら、あれ全部夢だったのかもなあ」
いやはや、俺も夢と現実の区別がつかない年になったか。
って、まだ十代だし!
なんだか、昨日も同じように自分にツッコミを入れたような気がする。
そんなデジャブを覚えながら、休日で閑散とした通学路をてくてく歩いた。
毎日、変化の乏しい道。
市の表通りから外れたここは、廃れた商店街でシャッターが閉まったままの店も多い。通学する側としてはありがたいことなのだろうが車も滅多に通らず、学生以外の姿はあまり見かけない。
そんな閑散とした通りを、寒さに身を縮めながら歩いていると、目の前に力なく歩く男女の姿が目に入った。
珍しく肩まである髪を下ろしたままにしているさくらと、胴着を背負ったキョウだった。
心なしか二人の足取りが重いように思われる。
「おーい、どうしたんだお前ら」
手を振りながら声を掛けた。
寒さに引き締まる冬の朝に、俺の声はやけに大きく響いた。
「えっ」
同時に振り返る二人。
瞬間、二人の顔が驚愕の色に染まる。
「あん? なんだ、俺なんか変か」
思わず、自分の格好を確認する。
まさか、また素っ裸なんじゃ…。
しかし、俺の格好は至って普通。いつもの学ランにロングコートである。
「なんだよ、驚かせるなよ。てっきり、俺また脱いじゃったのかと―」
突然、さくらが俺の胸に飛び込んできた。
そのまま、嗚咽を漏らし始める。
「な、なにすんだよ、さくら」
困り果ててキョウを見ると、なぜかキョウも涙ぐんでいた。
「え、なになに」
「…よかった、無事だったんだね。テツヤ」
目頭を抑えながら微笑むキョウ。
「無事って…」
フラッシュバック。
飛び散るガラス。
胸に突き刺さる剣。
落ちていく俺に、手を伸ばしながら涙を流すさくら。