過激に可憐なデッドエンドライブ-2
身体が思うように動かない。
まるで何個もの鉄球をぶらさげているようだ。
呼吸も乱れているし、身体のあちらこちらから痛みを感じる。
「…敵の残存戦力は、あとどのくらいだ?」
ひたすら酸素を求める肺を宥めながら聞く。
答える声はない。
「お前たち…」
私を守るように囲んで、部下達は皆事切れている。その更に外側に、倍の数はあろうかという敵の死体がある。
不意に襲い掛かる静寂。
自分がこの世界にただ一人取り残されてしまったかのように。
「すまない。無力な私を許してくれ」
燃え盛る火炎の音だけが虚しく響く。
「…諦めるのですか?」
その時、よく響く女性の声が聞こえた。
「何を、だ?」
ゆっくりと顔を上げた先には、父の側近の宮廷術師がいた。見事だった緋色のローブが無残にも煤焦げている。
「生きることを、です」
その言葉で自分を叱咤するように、女を強く睨みつけた。
状況が飲み込めた時には、既に遅かった。
慌てて身を起こそうとした時、手加減された突きが俺の顔面を打つ。
「一本! それまで。白、鳴滝の勝ち!」
重く響き渡る文法先生の声に、すかさず抗議する。
「ちょっ! 待ってよ、先生」
じろりと見てくる文法先生。
「今の見事すぎる一本に、なんか文句あっか?」
間の抜けた文法先生の訛り口調に、何も言い返せなかった。
「諦めろ、テツ。どう考えてもキョウの勝ちだ」
脇で見ていた立山耕作もキョウの肩を持つようだ。
「ちくしょう、これでまた負け越しかよ」
肩を落して凹む俺の目の前に差し出される手のひら。
「すごい攻撃だった。冷や汗かいたよ」
抜群の笑顔で、目の前に好青年が立っている。
「それをあっさり受け流したくせに」
毒づきながら親友の手をとる。
「次は負けないからな」
それを聞いたキョウは少し戸惑いながらも、笑顔で答えた。
「僕もさ!」
予期していた答えに闘志を燃やしていると、練習終了を告げる先生の声が聞こえた。
目を閉じてゆっくり深呼吸をする。
「諦めはしない。見苦しくとも、足掻き続けてみせる」
私の答えに満足したのか、女が一瞬の笑顔を見せた。慈愛に満ち溢れた笑み。
「…時間がありません。貴女を人間界へ送ります」
女はすぐに表情を引き締めてローブを翻し、両手を緩やかに動かして空中に何かを描き出す。
「なっ! それは出来ぬ。今すぐ父上と合流して―」
「帝は崩御なされました」
女は残酷すぎるほど冷静に断言した。
「…嘘を申すな」
思わず後退る。世の中で、それだけは絶対に起こり得ないと思っていたことだった。
「申し訳ありません。我ら臣下一同、全力でお守りしたのですが」
表情を変えずに言う女。しかし、その目はうっすらと濡れている。
「馬鹿な…、そんな、お、お父様!」
どうすることもできなくて、思わず膝がかくがくと震える。
「先ほど、仰ったことを忘れますな。見苦しくとも、生き延びなさい」
洩れる嗚咽を堪えられないでいると、足元が眩い光りに包まれた。
これは、アナザーディメンション異空間転移術式? こんな短時間でどうして―。
「向うでも我ら焔の一族が力になりましょう。どうかお元気で、姫様」
炎に包まれながらそう言う女は、壮絶なまでに美しかった。何がそうさせるのか。
「お前も来い、キョウコ!」
もう何も失いたくなくて、幼い頃から色んな事を教えてくれた女に手を伸ばす。
しかし。
必死の思いも虚しく、全てが。
純白の光りに包まれた。