過激に可憐なデッドエンドライブ-16
「殺す」
全速力でビルに向かった。その魔力がどれほど強大であったかなど考えもせずに。
魔力とは、人間の持つ生命力をベースに自然にあるエネルギーを取り込んだもの。だから、人間なら誰でも持っているのだが、それには限度がある。今さっきあのビルから感じた魔力は人間のそれを遥かに凌駕していた。
一体誰が。
ものの数秒でビルに着く。
無数にあるガラス張りの窓。
そのうちの一つ。
まだ少年と言ってもいい男がこちらを呆然と見つめている。
なぜか感じる危機感。
「お前か!」
体ごと少年のいるフロアに飛び込む。
割れる窓ガラス。
若い女の悲鳴。
真っ青な顔色をする少年。
刺した。
心臓を一突き。
「なんだ弱いじゃん」
串刺しにされている少年がびくんと一回痙攣して動かなくなった。
なんともあっけない。
「つまんないの」
愛用のレイピアを少年ごと振り払う。音もなく落下していく少年。
「いやあああ」
耳をつんざくような悲鳴。さっきも聞こえたやつだ。
落下した少年を見つめて、窓から落ちそうなほど身を乗り出している少女がいる。
けっこうかわいいかも。
でも庶民っぽさが出ているので殺そう。
「こんなに暴れたらジイに怒られるかな」
まあいいか、いつものことだしね。
気だるく剣を振り下ろす。
ザクッ。
肉ではない別のものを切った音がした。
「おや」
先ほどの少年と同じくらいの少年。
分厚いカバンで斬撃を防いでいる。
意外と素早い動きだった。
「いつ来たのキミ」
物凄い目付きで睨んでいる。
とても少年とは思えないほど荒んだ目。少し背筋が冷たくなった。
「…キミが先に死ぬ?」
ちょっと本気になって腕を振り上げる。
その時。
背中に猛烈な熱さを感じた。
景色がゆっくりと下に流れている。
外にいるのに全く寒くない。
それどころか胸が異様に熱い。
しかし、その熱さも同じように下に流れていく。
ああそうか。
閃くように状況が理解できた。
自分は落下しているんだな、と。
あの高さから落ちるなんて信じられない。
考えただけでもぞおっとする。
でも、いざ落ちてみるとそんなに怖くないものだった。
むしろ安心する。
全てがどこか遠くで起きているようだった。
このまま目を閉じてみれば、あっという間に――。
―サse、ぬ
「!」
地の底から湧きあがるような声がする。
一気に意識が覚醒して目を見開いた。
―ぅワれ…之…カラダ…
意味不明の声。ただただ禍々しさだけが伝わってくる。
―サセヌ…
「うおっ」
胸から流れ続ける血が急に温度を上げる。
「熱い!」
まるで燃えるようだ。火傷しそうなほど胸が熱い。
―テ、キ
いや錯覚ではない。胸から火が出ている。
―殺セ
血液が燃えている。
―殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
身体中の血管までもが燃え上がる。
目が燃える、手が、足が、末端の毛細血管までもが爆発するように炎を上げる。
「うわあああ」
炎はうなりを上げて前身を包み込み。
俺の意識はその炎に埋もれて行った。
炎が舞い上がる。
地獄の底から飛び立つ、不死鳥のように。